これを頭の中だけで考えるのではなく、実際のデータで示してくれるのが双生児による行動遺伝学研究です。もしどちらかの環境で遺伝率が大きくなれば、それはそれだけ環境が自由だから遺伝的な素質に合わせた行動が選べる。しかしもし共有環境や非共有環境の影響が大きければ、それだけ環境に左右され、自由な選択ができていないということになります。

 ここで遺伝と環境の考え方が、ふつうと逆転していることに気づくでしょう。ともすれば遺伝は人間を内側から縛るもの、それに対して環境はそれを自由に解放するものと考えられがちです。ところが遺伝側からすれば、環境の方が遺伝の進みたい自由に足かせをはめる要因と位置付けられているのが重要です。

安藤 寿康 あんどう・じゅこう

 1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。日本における双生児法による研究の第一人者。この方法により、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティ、学業成績などに及ぼす影響について研究を続けている。『遺伝子の不都合な真実─すべての能力は遺伝である』(ちくま新書)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』『生まれが9割の世界をどう生きるか─遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(いずれもSB新書)、『心はどのように遺伝するか─双生児が語る新しい遺伝観』(講談社ブルーバックス)、『なぜヒトは学ぶのか─教育を生物学的に考える』(講談社現代新書)、『教育の起源を探る─進化と文化の視点から』(ちとせプレス)など多数の著書がある。

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