勤勉性や協調性などは、ある程度自分の意思でコントロールもできるでしょう。もともとは勤勉性に欠ける人でも、どうしてもやらねばならないことに直面したら、多少は意思で自分をコントロールしてその仕事にまじめに取り組むでしょう。しかしもうやる必要がなくなったら元に戻ってしまうのに対して、もともと勤勉な人ならばそれでもまじめにやり続けることが性に合っていると思うわけです。
自分のことだけを見ていれば、パーソナリティなんて環境しだいでいかようにも変わると感じても不思議はありません。しかしそのセットポイントが人によって遺伝的に異なっていて、個人間にあるその違いは、自分自身の内的変化を感じているだけでは気づかないものです。
パーソナリティは「私は、心配性ではない」「緊張したり、びくびくしたりすることが多い」のようなたくさんの文章に自分がどれだけあてはまるかを自分で判断して数値で答え、一つのパーソナリティ特性として関連のある文章につけた数値の合計点をだしたものですから、そのころのその人の「ふだん」の状況や、特にインパクトのあったできごとに引っ張られたり、自分の思い込みも誤差として入って、非共有環境として算出されます。
その部分もまた大きいのです。
安藤 寿康 あんどう・じゅこう
1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。日本における双生児法による研究の第一人者。この方法により、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティ、学業成績などに及ぼす影響について研究を続けている。『遺伝子の不都合な真実─すべての能力は遺伝である』(ちくま新書)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』『生まれが9割の世界をどう生きるか─遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(いずれもSB新書)、『心はどのように遺伝するか─双生児が語る新しい遺伝観』(講談社ブルーバックス)、『なぜヒトは学ぶのか─教育を生物学的に考える』(講談社現代新書)、『教育の起源を探る─進化と文化の視点から』(ちとせプレス)など多数の著書がある。