パーソナリティと精神疾患(精神障害)や発達障害の双生児相関と遺伝・共有環境・非共有環境の影響の割合を紹介します。パーソナリティを測るテストはいろいろ開発されていますが、ここでは私が仲間の研究者たちと行っていた慶應義塾双生児研究プロジェクトに参加してくださった成人ふたごに受けていただいた代表的な2種類(NEO-PI-RとTCI)を取り上げました。また統合失調症やうつのような精神疾患と自閉症やADHD(注意欠陥・多動性障害)のような発達障害は海外の論文から引用したものです。

 これらが知能や学力と明らかに違うところは、二卵性の相関が一卵性の相関の半分かそれ以下で、類似性が遺伝だけで説明できてしまい、共有環境の影響がないか、あっても統合失調症のようにごくわずかだということです。共有環境がないというのは、とりもなおさず親や家庭の環境からの影響がない、つまり家庭で親の姿を見て学習したり、それを教育したりすることのできないものだということです。これらは学習によって脳の構造やネットワークのつながりが変化することによって生ずるのではなく、その時々に神経と神経の間の情報伝達にかかわる神経伝達物質の種類や量の放出具合に主に左右されるものと考えられます。

 これはおそらく多くの人の常識をくつがえすものでしょう。勤勉な子ども、活発な子ども、心根の優しい子どもに育てるのは親の責任と、多くの育児書には書かれています。しかし子どもはそのパーソナリティを、親から教わって、あるいは親の背中をみて学んだのではないのです。もし子どもがこれらのパーソナリティや発達障害を、親の示すふるまいをお手本にして、無意識にでも真似して学んでいたとすれば、同じ親に育てられた二卵性双生児は一卵性双生児と同じくらい似るはずですが、そうなっていないのがその証拠です。  

一緒に育ったふたごと別々に育ったふたごのパーソナリティの類似性

 こうして遺伝の影響を強調すると、パーソナリティや精神疾患や発達障害は遺伝によって決まっていて、環境ではどうしようもないと思われがちですので、そういう意味ではないことも同じように強調しておかねばなりません。同じ環境で育った一卵性双生児ですら、完全な一致を表す相関係数1からはほど遠い0.5ぐらいで(自閉症とADHDはそれより大きいですが)、非共有環境が大きいということです。非共有環境とは、同じ家庭で育っても一人ひとりが家の内外で行う異なる経験、それによって遺伝子を共有する家族でも互いに似させないような環境の影響の総体をさします。それが個人の中では安定して続く環境であることもありますが、その多くは主としてその場限りの一時的な環境、たまたま出会った状況のようなもので、とても変わりやすいものです。自分は人見知りだと思っている人も、それは初めて出会った人や苦手な人の前で引っ込み思案なのであって、親しい人と一緒ならそれほど引っ込み思案にはならないでしょう。一方、自分は社交的で人怖じしない性格だと思っている人も、ふだん会うことのない怖そうな上司とエレベーターでばったり二人きりになったら、多少なりとも物怖じしてしまうでしょう。人見知りの程度には遺伝的なセットポイント、すなわちその人がもっとも自然にとりやすいレベルが人それぞれにありますが、そのセットポイントを中心として、状況に応じてかなりの程度上下に変動します。

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パーソナリティは環境で変わるか