子どもの能力や性格は、環境しだい、親の育て方しだいと錯覚しがちだ。しかし、子育てマニュアル本に書かれてあるような単純な因果関係ではなく、遺伝と環境の両方の影響を考えることが必要だと説くのは、行動遺伝学研究者の安藤寿康氏だ。安藤氏は、新著『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新書)の中で、ふたごの類似性を分析することで、人間の行動に及ぼす遺伝や環境の影響の大きさを導き出せると解説する。協調性や集中力、勤勉性といった子どものパーソナリティの責任は親の育て方にあるのか。同著から一部を抜粋、再編集し、紹介する。
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一卵性と二卵性のふたごを比べる
私も含めて行動遺伝学者たちは、きちんとした心理学的なデータを統計的に分析することを第一に研究を行ってきています。ブシャードのプロジェクトでは実に一人当たり1万5000項目もの心理学的調査が行われているのです。これからその科学的な心理学的調査の結果をご紹介いたしましょう。
ここで重要なのは、別々に育った一卵性双生児の類似性ではなく、同じ家庭で育った一卵性双生児の類似性を二卵性双生児の類似性と比較することです。そもそも別々に育ったふたごを見つけるのは並大抵のことではありません。少なくとも日本ではそれが行われてはいません。また別々に育ったといっても、先のジムきょうだいのように、同じ州のわずか40マイルしか離れていない土地に住み、同じ観光地へバカンスに出かけていて、かなり似たような経験をしている可能性もあります。
その代わり、同じ家庭で育った遺伝子の等しい一卵性と、遺伝的には一卵性の半分しか共有していませんが一卵性と同様に同じ家庭で育った二卵性の類似性を比較してゆきます。ここで一卵性が二卵性よりもよく似ていれば、それには遺伝の影響がかかわっていると判断でき、さらに一卵性の類似性が二卵性を上回る程度が大きければ大きいほど、遺伝の影響が大きいと判断できます。逆に一卵性双生児も二卵性双生児もどちらも似ていたとしたら、それは遺伝によるのではなく、二人が経験を共有することのできる共有環境がかかわっていたと推察できます。さらに遺伝要因も共有環境要因も等しい一卵性ですら似ていないとしたら、その分は一人ひとりに固有に効いている非共有環境の影響ということになります。似ている程度は相関係数という数字で表します。これは完全に一致していたら1、全く似ていなかったら0になるような数値です。