この企業優先の途上国体質は30年前に転換すべきだったのだが、それを怠ったことで、今頃、人手不足により、どうしようもなくなり、そのツケを数年で払えということになっていると理解すれば良い。はっきり言って無理な話だ。
ちなみに、連合の賃上げが3.58%で凄いというのもミスリーディングだ。なぜなら、このうち定期昇給とベースアップを区別できる組合のベアの平均は、2.12%に過ぎなかったからだ。定昇は、個人単位で見れば賃上げになるが、企業全体では賃金の引き上げにはならない。
7月の東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年同月比3.0%の上昇だったので、真の賃上げであるベア分2.12%では、実質賃金は2.12−3.0=マイナス0.88%に沈む。
現に、毎月勤労統計では、5月の実質賃金指数が同マイナス0.9%で14カ月連続マイナスとなっている。さらに、仮にインフレ率に賃上げが追いついたとしても、過去30年にわたって実質賃金が上がらなかった分を取り戻すことにはならないということも忘れてはいけない。
結局、構造的な賃下げ体質を解消しないまま一時的に表面的な賃上げを強制してもすぐに化けの皮が剥がれるだけだ。
岸田首相は、「最低賃金1000円」「30年ぶり賃上げ実現」を誇示し、「構造的賃上げの岸田」を売りにして、今秋にも解散総選挙に持ち込めるのではと密かに目論んでいるのかもしれない。
しかし、この先に待ち受けるのは、実質賃金低下の継続と賃上げ倒産地獄である。岸田首相の目論見はまさに取らぬ狸の……になる可能性が大である。