しかし、それは、企業にとっては、負担増だ。その負担を生産性の向上によって吸収できれば良いのだが、それができない産業・企業は、その流れを止めてくれと叫び、政治家への圧力を強める。
1980年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と賞賛された日本企業だが、90年代以降、韓国・台湾などの追い上げに遭い、急速に国際競争力を失った。本来は、ここで、日本の企業は、労働条件を引き上げながら競争できるビジネスモデルへの転換を図らなければならなかったのだが、経団連企業の経営者にはその知恵がなかった。
欧米諸国では構造転換に20年以上を費やして成長軌道に戻ってきたが、日本企業は最初からその努力を放棄し、労働コスト引き下げで競争力を維持するという、極めて安易な方向に逃げたのだ。
賃下げ犯罪のA級戦犯である経団連の共犯者は、もちろん自民党だ。企業利権と一体となった政策を採り続ける自民党は、企業の労働コスト削減を支援する労働者派遣の活用に走った。正規雇用から非正規雇用への大転換のきっかけとなる政策だ。
元来、派遣は、不当な中間搾取を招くとして職業安定法で禁じられていた。つまり、犯罪だったのだ。ところが、86年には労働者派遣法が施行され13業務限定だが派遣を認めることになった。99年には製造業などを除き原則自由化され、04年には製造業への派遣も解禁された。派遣労働は禁止から正反対の原則自由になってしまったのだ。
自民党による無能な経団連経営者への支援はそれだけではなかった。安価な労働力供給のために外国人労働者受け入れを拡大したのだ。
外国人技能実習制度はその代表格。「技能実習」で国際貢献というのは、真っ赤な嘘で、実態は、現代版奴隷制で、技能実習生が、間に入ったブローカーやブラック企業に搾取される悲惨な例が蔓延した。
19年からは、特定技能制度が導入されたが、これは、国際貢献ではなく、人手不足対策を前面に打ち出した政策である。ただ、これでも全く不十分なので、現在、技能実習制度の廃止を含めて抜本的な「改革」について検討が進んでいる。しかし、結局のところ、低賃金労働者導入をさらに本格的に行い経団連企業を支援することになるはずである。