さらに、08年に策定された「留学生30万人計画」も同じ目的を持っていた。留学生といっても、大学生や大学院生などではなく、増えたのは圧倒的に日本語学校生だった。彼らを低賃金労働者として活用するために、留学生のアルバイト規制を大幅に緩和した。

 これらの低賃金労働者導入政策を実施してもなお、経団連企業は競争力を回復できなかった。なぜなら、競争力喪失の最大の要因は、労働コストではなく、経営者の能力の欠如だったからだ。

 しかし、彼らは、それを認めず、折から進んだ円高のせいにして、円安にしてくれと叫び始めた。これに応えたのが、安倍晋三政権だ。経団連の声に応え、アベノミクスの第一の矢として異次元の金融緩和を掲げたのだ。お金をジャブジャブにして金利を下げるというのが表向きの目的だが、その本当の目的は円安だった。安倍政権になると、円は民主党時代の1ドル80円から一気に120円まで下がった。アベノミクスを継続する岸田政権の下では一時150円となり、現在は約140円である。

 これを、労働コストの面から見るとどうなるか。1ドル80円時代なら、時給1000円の賃金はドル換算で12.5ドルだった。これが1ドル120円で8.3ドル。140円なら7.14ドルで、賃金を43%カットしたのと同じだ。円安とは、日本の労働者の安売りなのだ。これは、究極の労働コスト切り下げ政策だ。輸出大企業はこれにより大増益を実現した。

 しかし、企業が新たなビジネスモデルへの転換を行わないまま、派遣規制緩和、円安政策などの政府によるカンフル剤を続けても、その効き目は一時的だ。時間が経つと、元の木阿弥でさらなる賃下げ政策をということになる。

 そこで、冒頭の最低賃金の話に戻ろう。あまり上げ過ぎると、中小企業が困ると言って経済団体のトップが恥ずかしげもなく堂々と反対する。労働者がフルタイムで働いてもまともな生活ができないと言っても、「経営者が困るから」で議論が終わっていたのだ。「人より企業」が自民党の政策の特徴だ。

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構造的な賃下げ体質を放置しては意味がない