ジャニーさんの「性加害」の出発点は、セクシュアリティーと言えるだろう。思い出したのが23年2月、当時の首相秘書官が同性婚制度の導入について「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと発言し、更迭されたことだ。首相秘書官という官僚としての「成功」の真っ只中、オフレコでの発言という油断もあって、つい本音を語ってしまったのだと思う。

 この秘書官もそうだが、ある年齢以上世代はセクシュアリティーに関する問題が苦手だ。思春期から価値観がすごいスピードで進化しているからで、古い価値観から抜け出せなかったり、ないこととして蓋をしてしまったりしがちだ。進化に追いつくには知ることと、共鳴する心を常に持つことではないかと思う。ちなみに更迭された首相秘書官は67年生まれ、山下さんは53年生まれだ。

■大文字の「少数者」は見えても小文字の「少数者」は見えない

 山下さんのことをあれこれ調べたら、22年のライブのことを何人もの人がブログなどに書いているのを見つけた。演奏の合間に「小池百合子とプーチンと習近平と同じ年」「同世代としてお詫びする」などと語っていたという。彼は本来、「真ん中の外」のことへの関心が低い人ではないのだ。22年に出したアルバムに収録された「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」という曲は、アフガニスタン、香港、ミャンマーなどの騒乱に想を得て21年に書いた曲だそうだ。

 地球の上に「弾圧」される人々がいる。そのことへの確かな目は持っている。だけど、ジャニーズ問題は「ご縁とご恩」の前で消えてしまう。グローバルなら感じられる痛みも、身近だとそうならない。大文字の「少数者」は見えるけれど、小文字の「少数者」は見えない。それが山下さんなのかもしれない。あのラジオの弁明は、大きな成功体験を持つ男性の悲しみーー。そんなふうに思ったりもした。

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