彼が言いたかったのは、「私の人生にとって一番大切なことはご縁とご恩です」だった。「私が一個人一ミュージシャンとしてジャニーさんへのご恩を忘れないことや、それからジャニーさんのプロデューサーとしての才能を認めることと、社会的・倫理的な意味での性加害を容認することとは全くの別問題だと考えております」というのは、「ジャニーさんは素晴らしい。だけど性加害がOKとは言ってないからね」ということだろうか。結局のところ、ジャニーさん絶賛報告で、「このような私の姿勢を忖度、あるいは長いものに巻かれているとそのように解釈されるのであれば、それでも構いません。きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう」という最後の言葉は、開き直りというか脅しというか、ちょっと怖かった。
■心から理解しているか? 重なったかつての発言
世の中にはメジャーでなく、マイナーな人がいる。そういう事実が腹落ちしていないのではないだろうか。何かを発信すれば聞いてもらえる、そういう人ばかりではない。そうでないところから、やっとの思いで声をあげる人がいるということを頭では認識しても、心から理解できない。だから「被害」を語る人のことよりも、ジャニーさんとジャニーズ事務所が大切だと思える。そんなふうに感じた。というのも、かつての山下さんの発言と重なったからだ。ここから、その話を書く。
2019年、竹内まりやさんは前年のデビュー40周年を受けた記念アルバムなどの宣伝のため、あちこちのメディアに登場、その集大成のような番組「竹内まりや Music&Life~40年をめぐる旅」がNHKで放送された。私には彼女の歌をカラオケで何度も歌った「ご縁とご恩」があったから、じっくり見た。番組の目玉は夫である山下さんの出演だった。歌ではなく、語り。「竹内まりやさんの曲が今も輝き続けるのはなぜか、この人が語ってくれました」と紹介された。
「竹内まりやが40年間続けてきた音楽スタイルは、どなたにでも受け入れていただける、いわゆるミドルオブザロード・ミュージックです」。そう始まった。ミドルオブザロード・ミュージックだがトレンドには媚びず、追随せず、その先の普遍性を模索してきた、と言い、最後に、全作品に通底しているのは「人間存在に対する強い肯定感」で、これが浮き沈みの激しい音楽業界で長く受け入れられてきた要素だと締めた。