子どもは地域の保育園でのびのび過ごし、親は快適なワークスペースで仕事をするという、旅行でも移住でもない数週間の暮らし。そんな「保育園留学」が、子どもの体験を重視する共働き世帯に人気だ。手がけているのは、食と暮らしに関する事業を展開している株式会社キッチハイク。昨年の一時期には、キャンセル待ちが2500組にのぼったという。何が子育て世帯の注目を集めているのか。
【写真】都会の子育て世帯にとって、うらやましすぎる「はぜる」の園庭
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一人娘が通っていたのは、横浜市内にある、園庭もない保育園。多感な幼児期を、この環境で過ごさせていいのだろうか。キッチハイク代表の山本雅也さんは、悩んでいた。
2021年の夏、北海道の厚沢部(あっさぶ)町と仕事をする機会があり、たまたま現地の認定こども園「はぜる」を知った。そこにあったのは、広い天然芝の園庭、天井が高く木の温もりがある遊びスペース、野菜の収穫ができる菜園。瞬時に惚れ込み、一時預かりの制度を利用して当時2歳の娘を預けてみようと、一家で向かった。
改めて保育環境のすばらしさに感動し、すぐに子ども主役の滞在サービスを思いつき、町の協力を得て4カ月ほどで事業化。11月には「保育園留学(R)」として、1号園となる「はぜる」で募集を始めた。
「はぜる」には応募者が殺到し、昨年のピーク時には2500組近くのキャンセル待ちが出た。ほかの地域とも提携して留学園を増やしていくなか、今年5月末までにのべ216組750人の家族が利用、約330人の子どもが留学体験をしている。1~3週間の滞在条件のなか、2週間の滞在で費用20万円からのプランが主流だという。
キッチハイク広報の福田将人さんは、人気の理由をこう話す。
「移住には、行ってみなければわからない土地に飛び込む、一か八かの決断を迫られるイメージがあります。子育てのことを考えると、なおさら構えてしまうはずです。
『保育園留学』の良さは、短期間の暮らしという弾力的な仕組みにあります。ライフステージに合わせて、家族や子どもにとって居心地の良い場所を選べる“やわらかな移住”の提案です。居住空間やワークスペースも完備されているため、思い立ったらすぐ行けるという手軽さもあります。コロナ禍によるリモートワークの普及で、現実的な選択肢として考えられるようになった背景もあると思います。なかには、お孫さんを連れて行きたいというおばあちゃんからの希望もありました」