これには後日談があります。中学、高校を経て、私は東大に、ガキ大将は慶應大学に入り、地元の川越からそれぞれ電車で通いました。そこで二人はよく会い親しくなったのです。酒も一緒に飲みました。でも、いじめのことは、一度も話題にしませんでしたが。

 S君とはずっと会っていなかったのですが、中学校の同窓会で再会しました。誰かわからなかったのです。名前を聞くとS君だといいます。昔、助けてもらった話をして、「あのときのお礼に一献差し上げたい」と言って別れました。ところが2、3日して「あなたとは身分が違うから」と断りの手紙が届いたのです。そのへんがS君らしいのかもしれません。でも、いつか一杯やりたいと思っています。

 子どもの頃の記憶は深く刻み込まれます。ですから子どもには、できるだけいい思い出を作ってあげたいですね。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2023年5月19日号

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帯津良一

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帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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