一方、脳ドックなどで未破裂脳動脈瘤が見つかる場合があります。未破裂脳動脈瘤は放置するとくも膜下出血を発症する恐れがありますが、治療するかどうかは、瘤の破裂リスクと治療のリスクを天秤にかけて判断することになります。一般的には、5ミリ以上の動脈瘤か、それより小さくても破裂しやすいと考えられる動脈瘤(症状が出ているもの、奥行きが長いもの、いびつな形のもの、破裂しやすい場所にあるもの)、あるいは増大する動脈瘤などに対しては治療が推奨されています。以上の条件に当てはまらない場合や、当てはまっても患者さんが希望しない場合は、経過観察となります。
経過観察を選択した場合について、吉村医師は次のように述べます。
「未破裂脳動脈瘤と診断されると、『いつ破裂するかわからない』と恐怖に悩む人がいます。また一方で、手術のリスクについて心配する人もいます。そのような場合は、対応として経過観察、脳血管内治療、開頭手術があることと、それぞれの利点・欠点について患者さんとご家族にじっくり説明し、相談しながら決めてもらいます」
経過観察では、初診後は3カ月後、その後は6カ月に1度程度の診察になります。経過観察中は、高血圧や喫煙、大量飲酒など、脳動脈瘤の破裂の可能性を高める因子を避ける生活習慣に努めることが重要です。
それでは、経過観察になった場合、1年でどの程度、脳動脈瘤が大きくなると治療が必要になるのでしょう。一般的に、脳動脈瘤が増大すると破裂率は通常の10~20倍に上昇すると言われています。
「ただし、何ミリまでは大丈夫という基準はありません。脳動脈瘤が大きくなったり形が変わった場合は破裂する可能性が高いことが知られていますので、早めの治療を考慮すべきだと思います」(吉村医師)
未破裂脳動脈瘤を治療する場合も、開頭手術と脳血管内治療が選択肢になりますが、最近では脳血管内治療が急速に増加し、主流になりつつあります。広南病院脳神経外科部長の遠藤英徳医師は次のように述べます。
「脳血管内治療の選択肢が増えたことで、さまざまな治療が行えるようになりました。未破裂動脈瘤の場合は、どの段階で治療すべきなのか、あるいは経過観察で済むのかについてきちんと医師に説明してもらい、納得したうえで治療を選択することが大切です」
脳血管疾患は、急性の脳梗塞やくも膜下出血では緊急の治療が必要になりますが、未破裂脳動脈瘤に対しては、予防治療について専門医に適応を慎重に検討してもらい、相談しながら、経過観察で様子をみる場合があることを知っておくことも重要です。
(文・伊波達也)
【取材した医師】
兵庫医科大学病院脳神経外科主任教授 吉村紳一 医師
広南病院脳神経外科部長 遠藤英徳 医師
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