「役員にとっても現場の社員のリアルな声が聞け、経営方針がきちんと伝わっているかを確認できる貴重な場です」と堀場会長。現在、自動車のエンジン排ガス計測システムで世界シェア80%を誇り、医療や半導体分野にも事業を広げる同社。戦後間もなく京都大学の学生だった堀場雅夫氏が学生ベンチャーの先駆けとして創業した。
社是は「おもしろおかしく」。堀場会長はその意味をこう説明する。
「趣味に没頭しているとき、人は寝る間も忘れ集中して楽しみます。その状態が仕事になれば最高です」
飲みニケーションは日本企業ならではの文化かと思いきや、海外でも通用するという。
「近年、堀場は海外でM&Aを行っていますが、どの海外企業も社是を英訳した“Joy&Fun”に賛同してグループに入ってくれます。人は通達や命令だけでは動かない。アフター5のコミュニケーションが大事なのはどこの国も同じです」(堀場会長)
誕生会の他にも、夏には会社屋上で新入社員がビアガーデンを企画・運営するほか、誕生会に出席できない管理職向けには年末に京都市内のホテルでタキシード・和服着用の本格的なパーティーを開く。2016年に新設した滋賀県のびわこ工場にはバーを設置。周囲に飲食店が少ないこともあり、訪問者や社員同士の交流に活用する。
「部課ごとの飲み会も頻繁にあり、ある雑誌に『日本一飲み会が多い会社』と書かれたこともあるそうです」(河原林さん)
同社は黎明期から創業者の妻が手作りのケーキで社員をもてなしたり、酒席で役員がエプロンをつけ料理を振る舞ったりしたという。時代が変わってもその伝統が引き継がれるのは「飲みニケーションこそが堀場の強さを作る」という確信があるからだ。役員で秘書室長を務める山下泰生さんは語る。
「2008年のリーマン・ショック後、当社も一時的に業績が悪化し、大規模なコスト削減を行いました。その時も毎月の誕生会だけは削減対象にならなかった。それだけこの場が当社にとって重要だということです」
(編集部・川口穣、ライター・大越裕)
※AERA 2018年12月3日号より抜粋