昭和の響き、とあなどってはいけない。「飲みニケーション」が今、脚光を浴びている。大手も新鋭も、好調企業がこぞって採用。今や成長に不可欠な経営ツールとなりつつある。なーんて小難しいことは置いといて、乾杯!
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●SmartHR
夕方6時半を過ぎると、社の出入り口近くにあるバーカウンターに少しずつ人が集まってきた。ガラス張りの冷蔵庫から缶ビールや缶酎ハイを思い思いに取り出す。格式ばった乾杯などはない。自然と人の輪ができ上がってきた。
「仮眠スペースがほしいな」
「ここはコンセントを増やした方がいいんじゃない?」
来年移転予定の新オフィスについて意見が交わされる。開発、営業、人事など部署を超えて人が集まり、活発なコミュニケーションが生まれていた。
「社全体で気軽にコミュニケーションをとれるようにしたいんです。お酒はそのためのひとつのツールですね」
SmartHRの最高財務責任者(CFО)玉木諒さん(36)は言う。同社の主力業務は労務手続きや情報管理の手間を省くクラウド人事労務サービスの提供だ。
「私たちのビジネスは、前例のないものをゼロから作り上げます。参考にするお手本があるわけでもないので、部門間の連携が特に重要です。部署の垣根をなくして気軽にコミュニケーションをとれるようにしないと、仕事がうまくいかないんですよ」
採用活動にも飲みニケーションを取り入れている。同社は社員に知人を紹介してもらう「リファラル採用」に力を入れている。だが、社員が友人にいきなり「うちの会社受けてよ」と話しても、戸惑われるだろう。そこで、会社のビジョンや雰囲気を説明しながら受験を促すために、社員と、誘いたい人で食事に行ってもらう。その費用を会社が補助するという。実際、現役社員の3分の1程度が社員の推薦で入社している。
去年入社した藤田隼さん(29)は、前職の同僚で、先にSmartHRへ転職していた荒木彰さん(31)に誘われた。神楽坂の焼き肉屋で飲み食いしながら、同社のビジョンや自分に期待される役割などを聞き、選考を受けることを決めたという。