鎌倉という町は、その後現代にいたるまで、さまざまな花の咲き乱れる寺に守られ、その境内に多くの幕府関係者や関東武者たちの墓を抱きつつ、「いざ! 鎌倉」の合言葉とともに生き残ってきた。
切り通しや狭い小路、行き止まりの道が多く残り、山の斜面の洞には、武将も一般人も多くの人がまつられている。
私の友人が移り住んだのは、有名な寺の借地である。鎌倉では土地の多くが寺社のもので、借地に家を建てているケースが多い。
そこには歴史上の人物の眠る墓が日常茶飯事のごとく存在し、私たちはその長い歴史の線上に日々を生きている。
寿福寺は梅の盛りであった。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2023年3月3日号