1614年の「大坂冬の陣」で真田信繁(幸村)が立てこもり、徳川方に大損害を与えたという真田丸。大坂城の南東に築いた出城で、昨年のNHK大河ドラマのタイトルにもなった。

 真田丸は冬の陣後、和睦条件としてわずか数カ月で歴史上から消えた。ナゾに満ちた存在だが、詳細な規模を描いた古地図が見つかった。それが、「大坂 真田丸」だ。

 松江歴史館(松江市)で昨年見つかった。同館によれば、古地図は松江市に住む男性が1953年に市に寄贈した「極秘諸国城図」74枚中の1枚。なぜ松江にあったのかなど詳細は分かっていない。昨年2月に同館が別の城を調査する過程で絵図集を確認した際に発見し、同年7月に発表した。

「真田丸が詳細に描かれた、最古の古地図です」(同館学芸員の西島太郎さん)

●インテリアで活躍も

 縦27.8センチ×横40.6センチ。絵画集の包み紙に「元禄五年正月」(1692年)とあった。注目されたのは、真田丸の南側の堀に、これまでどの古地図にも書かれていなかった、最も外側の堀を意味する「惣構堀(そうがまえほり)」と記載されていた点だ。つまり惣構堀以南に真田丸が突き出した形ではなかった。古地図の北側には「出丸」の表記もあった。真田丸に「本丸」と「出丸」があったとも解釈でき、真田丸は独立した城塞だったと考えられるという。

「偶然に見つかったとはいえ、古地図に価値が生まれたことは意義深いと思います」(西島さん)

 古地図は「アート」としての側面も持つ。古書・古地図専門の「秦川堂(しんせんどう)書店」(東京・神田神保町)の3代目店主、永森譲さん(78)は言う。

「とくに江戸時代に作られた木版による古地図は、美しい絵柄や和紙の風合いが特徴。古地図に美術的な価値を見いだし、インテリアとして買っていく人も多くいます」

 最近の人気は、鳥瞰図。とりわけ「大正の広重」と呼ばれた絵師の吉田初三郎(1884~1955)が旧鉄道省などの注文で描いた全国各地の鳥瞰図は、美しいカラー挿絵と大胆なデフォルメで人気が高い。価格は、一枚2千~3万円ほど。古地図の値段はどうやって決まるのか。

 永森さんによれば、「保存状態と希少価値」だという。そのため、時に驚くような値段がつく。これまでの古書店での販売価格で最高値がついた古地図と見られるのは、正保2(1645)年に作られた「万国総図人物図二幅」と呼ばれた古地図だ。なんと3800万円の売値がついた。4年ほど前に、都内のある古書店で販売された。

 秦川堂にある古地図では、安いものだと江戸や明治期の複製品で500円ほど。高いのは、江戸中期の浮世絵師の石川流宣(とものぶ)が作った「大日本国大絵図」で約60万円だという。また近頃は、「竹島」や「北方領土」が記入された古地図を買いに来る人も増えていると、永森さん。

「古地図は時代を反映しています。古地図を解析して新しい発見や何かの成果に結びついてくれれば、うれしいですね」

 一枚の古地図から時代を旅し、時代ごとの古地図から歴史をひもとく。古地図とは、人間の営みを伝えてくれる贈り物である。(編集部・野村昌二)

AERA 2017年2月20日号

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