うつ病を克服し、偏差値29から東大に合格。ベストセラー『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』の著者・杉山奈津子さんが、今や3歳児母。日々子育てに奮闘する中で見えてきた“なっちゃん流教育論”をお届けします。
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生後11カ月の次男を2回床にたたきつけて死なせたとして、三つ子を育てていた30歳の母親が傷害致死罪で逮捕され、懲役3年6カ月の実刑判決が言い渡されました。それに対して、世の中の母親たちの間で執行猶予を求める署名活動が広がっているそうです。三つ子を育てていた母親は、いわゆる「育児うつ」の状態でした。
■不妊治療の末に子どもを授かり、三つ子の母となる
「虐待した人間を擁護するのか」「うつだったからといって、無抵抗な赤ちゃんを床に叩きつけていいのか」という意見を聞いたことがあります。しかし、署名を応援している人たちは、決して「育児が大変なら虐待しても仕方がない」という理由で、名前を書いているわけではありません。この事件をきっかけに、「育児中の母親の実態を世に広め、困っているときにサポートしてくれる仕組みをつくってほしい」と願っているのです。
逮捕された母親は、不妊治療の末に子どもを授かりました。つまり、赤ちゃんがおなかに宿る時点までに、妊娠への期待と絶望を繰り返し、かなりつらい思いをしてきているわけです。そんな困難を乗り越え、リスクが高くなる多胎児の妊娠期間を経て、子どもが無事に生まれてきたときの喜びは計り知れないものだったはずでしょう。それにもかかわらず、1年もたたないうちに殺したくなるまでの心境に至ってしまったのですから、三つ子の育児がどれだけ壮絶なものかがわかります。
問題なのは、その「殺してしまう」という行為に対し「自分も同じことをしてしまうと思う」と共感し、恐怖する母親が、あまりにもたくさんいる点です。彼女が特別なのではありません。私も、子どもは1人ですが、生んでからしばらくは育児が大変すぎて、可愛いと思う余裕がありませんでした。多くの母親が、我が子を手にかけた彼女の状況に感情移入してしまうなら、現在の育児のサポート態勢がおかしいのだと思いませんか?
私は、結婚して数年たったとき、ごく自然な気持ちで「子どもをつくろう」と思いました。しかし、出産と育児を実際に経験すると、「本当に全国のお母さんがこんなことを経験しているの?」と驚きました。それらは、想像力の乏しかった過去の自分を殴りにいきたくなるくらい、すさまじく体力と精神力を消耗する、しんどいものでした。
■10カ月続いたツワリ、毎日が地獄に思えた
なぜか私のツワリは、妊娠してから出産するまでの10カ月間続きました。朝起きてから夜寝るまで気持ち悪くて動けず、初期は入院までしましたが、赤ちゃんがいるので吐き気止めなんて使えません。約300日の間に、検診以外で外出できた日はたった3日しかなく、毎日が地獄のように思えました。