でも、妊婦期間内に苦労するのはツワリだけではありません。風邪薬をはじめとする薬は飲めないし、骨盤がずれやすいので腰も痛くなるし、胎動で蹴られすぎて肋骨(ろっこつ)が痛くなるし……後期になると、足の爪が切れなくなるまでおなかが膨らむので、重くて動くのも眠るのも大変になり、胃が圧迫されて吐きそうにもなってきます。私のツワリのように、ある特定の症状が強く出て、入院する人もいます。
多胎妊娠した人たちの辛苦は、その比ではないと聞きます。妊娠中毒にもなりやすく、切迫早産のリスクも増大します。命の危険を伴うトラブルが起きやすいので、早めに入院して、予定より早く帝王切開で産ませる病院がほとんどです。
妊娠中も大変ですが、みんな声をそろえて「本当にキツいのは生まれてから」と言います。生後すぐは、1時間半~2時間、長くても3時間ごとにミルクをあげなくてはいけません。しかも赤ちゃんは1回のミルクを飲むのに、想像以上に時間がかかります。3人いれば、全員一度には飲ませられないので、休む時間などありません。それに加えて、ギャン泣きする赤ちゃんを抱いてあやしたり、寝かしつけたり、オムツを替えたり、お風呂に入れたり……家事も考えれば、ほんの2時間もまとめて眠らせてもらえない状態が毎日続くのです。
たとえば「久しぶりに少しだけ湯船につかりたい」というだけの願いもかなわず、自分のことに使う時間など皆無。母親が唯一休めるのは、赤ちゃんが静かに眠ったときだけです。しかし多胎育児の場合、1人を眠らせても、1人の子が泣きだして他の子も起こしてしまうそう。3度出産して3人を育てるのも相当大変なことです。ですから、1度目の出産で一気に3人の世話をするなんて、もう尋常でないほどの多事激務でしょう。
■役所に相談した結果、精神的に余計に追い込まれた
以前、あまりに疲れがたまって「これは育児うつなのでは?」と感じたとき、役所に「困っている」と相談したことがあります。それで、問題が解決したかというと……結果として、しませんでした。親身に話を聞いてはくれましたが、アドバイスをされて終わり。
あとは「虐待していないか?」を探るような電話ばかりかかってきて、精神的には余計に追い込まれました。役所は役所として、できないこと、やるべきことがあるのでしょうが、「公的なサポートはない」と考えると、途方にくれてしまいました。「ほんの1時間でもいいから長くまとめて寝たい」という切羽詰まった精神状態で、「今すぐ助かるシステムなんてない」と突きつけられる、絶望感と孤独感。
私の場合、たまたま在宅でできる仕事だったため、実家に移り育児を手伝ってもらうことで、なんとか育児うつから抜けることができましたが……それまでは「いつまでこんな眠れない状態が続くのかな」と、めげそうになることが何度もありました。