添加物だからといって全否定してはいけない。このことはグルタミン酸ナトリウムについて考えてみれば、すぐにわかる。グルタミン酸ナトリウム、いわゆる「味の素」の主成分だ。以前は化学調味料と呼ばれていたが、「化学」の印象が悪くなったためか、その後、「うま味調味料」と呼ばれるようになった。昔「味の素」(グルタミン酸ナトリウム)が健康によくない、といわれた時期があった。
とくに海外では中華料理に使われており、喘息(ぜんそく)発作などが起きやすいといわれたのだ。このような「味の素」に関連した(と思われる)諸症状は、中華料理店症候群とかMSG症候群と呼ばれていた(Chinese restaurant syndrome, monosodium glutamate (MSG) syndrome) (Settipane GA.N Engl Reg Allergy Proc. 1987 Jan-Feb;8(1):39–46)。
ぼくも米国で研修医をしていた1990年代には授業でこのような症候群の存在を学び、「中華料理の摂取歴は確認するように」と教わった。中華料理とその中にある「化学」調味料が健康を害する、という言説は医者や医学界も含めて多くの人が信じていた。
■「人工」のものはよくないという間違った議論
しかし、それは事実ではなかった。その後の研究で、グルタミン酸ナトリウムの健康被害は関連がないことがわかったのだ(Williams AN, Woessner KM. Clin Exp Allergy. 2009 May;39(5):640–6)。大量に使わなければ(たいていのものと同様)グルタミン酸ナトリウムは健康に害をもたらすことはないのだ。しかし、このような研究が発表された後も化学調味料は健康によくない、という考えは多くの人に信じられている。
「化学」調味料を「うま味」調味料と改名せねばならないほど、「化学」の印象は悪く、化学的操作をした食品は健康によくないと信じ込んでいる人は多い。それを後押しするようなうさん臭い健康雑誌や漫画も多い。しかし、このような「化学調味料は不健康の元」、「食品添加物はよくない」と決めつけるのは科学的、あるいは理性的な態度ではない。