確かにグルタミン酸ナトリウムの使い過ぎは食べ物の風味を損ない、強い刺激はわれわれの味覚をも低下させかねない。大量摂取は好ましい態度ではないだろう。でも、思い出してほしい。そもそもグルタミン酸ナトリウムは昆布からの抽出物だ。要するに、「化学調味料」は「昆布だし」と同じものが入っているのだ。事実、少量使った「うま味調味料」は食べ物をおいしくする。拙著『食べ物のことはからだに訊け!』でもその点は指摘した。「カチョウ(化学調味料)」入りの食べ物は味覚を損なうとよくいわれるが、そもそも化学調味料がこれほどまでに日本や中国で普及するのはシンプルに「化学調味料を入れると食べ物がおいしくなる」からなのだ。


 
 雁屋哲、花咲アキラの「美味しんぼ」という漫画でも化学調味料(うま味調味料)は徹底的に批判された。しかし、同じ「美味しんぼ」で、昆布の粉末は「食べ物がおいしくなる」と絶賛されていた。ぼくは「美味しんぼ」の大ファンで、この漫画は全体的には好きだが、このような二重規範(ダブルスタンダード)は問題だと思っている。同じものを扱っているのに、「自然」なものはよくて、「人工」のものはよくない、というのは間違った議論だ。これは「自然」という語感や雰囲気にだまされている間違った判断なのだが、この手の「雰囲気にだまされる」事例はしばしばある。
 
 それに、忘れてはならない。グルタミン酸ナトリウムの抽出は日本人の偉大な学術成果だ。「人工的だからよくない」という感情的な議論は、一生懸命われわれのために頑張ってくれてきた日本の食品業界の方々に失礼だ。うま味調味料(化学調味料)はもう一度、原理原則に立ち返って、正当に評価すべきなのである。
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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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