鎌田倫子
「男性の産休? いらねー」 厚労省がまさかの新制度、働く妻たちの本音とは
写真はイメージです(Getty Images)
厚生労働省が実施を目指している「男性産休」がさまざまな議論を呼んでいる。子どもが生後8週までなら2週間前までの申請で休めるというもの。男性の育児参加を促す狙いがあるが、共働きで子育て中の女性からは冷ややかな反応も。働く妻たちの本音を探った。
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「男性の産休? いらねー、というのが率直な感想でした」
小学生の子どもがいる女性は、出産時に夫が転職活動中で図らずも「男性産休」を経験した。この女性の場合、妊娠中の10カ月間は、大きな体調の崩れもなかった。そのため、特に夫に手伝ってほしいことはなかったという。
「妊娠後期だとうつ伏せができない、足の爪がきりにくい、靴下をはくのに時間がかかるなど不便なことはありましたが、それを男性が手伝ってくれるのでしょうか」
夫がしたことといえば、子どもが産まれると行きにくくなる映画などレジャーのお供。女性は男性の育休は必要だが、産休はいらないと考えている。
厚労省が新設を検討しているという「男性産休」は、妻の産前にも休暇が申請できるのかなど、詳細はまだあきらかになっていないものの、女性の産休期間である子どもの生後8週まで男性も休暇を取りやすくする制度のようだ。報道によると、最大で4週間休めるという。狙いは、男性の育休取得の促進。育休は男女ともに子どもが1歳になるまで取得できるが、2019年度の男性の取得率は7・48%と伸び悩んでいる。
「男性産休」新設を伝える記事は、朝日新聞12日付け朝刊3面の左下に掲載された。紙面では目立つ位置ではなかったものの、8時30分に朝日新聞デジタルの記事として、ネットに配信されると、瞬く間にコメント数が急上昇。賛否両論沸き起こり、当事者の働く女性からは辛辣なコメントや夫の育児参加に関する残念なエピソードの書き込みも目立った。
そこで、働く女性に「いらない」の真意をじっくり聞いてみることにした。
ゼロ歳児と3歳児の母親で、現在育休中の女性は、「子どもが一人目のときは、妻にとって夫は家にいてもイライラするだけの存在になりがち」と指摘する。その理由を聞くと、
「もちろん家にいてサポートしてくれたらありがたいんだけど、一人目のときは夫はやるべきことをわかっていないんだよね……」
例えば、どんなことだろうか。
「母親は授乳があるからどうしても24時間子どもにつきっきりみたいな状態になる。夜も昼もないから疲れてくるし、2時間くらいまとまった昼寝がしたいんだけど、夫にその発想がないの。だから妻からお願いしなきゃいけない。けっこうイライラするよ。ふと気づいたときに夫は昼寝していて……」
ほかにも日常のさまざまなシーンで、「イライラ」は起こるという。
「食事も子どもをみながらだと、満足に食べれないから、私が食べている間に抱っこしてほしいんだけど、そのことに気づかない。何で気づかないんだろうって。自分事にできないんだろうね、だから妻はイライラする。だから下手に一日中いられてもなあ」
女性は、子どもが1人目のときの家事は、仕事が終わって帰宅してから夫が手伝うのでも十分間に合う量だと感じており、新設の制度に関しては「休み」か「時短勤務」を選べるといいという意見だ。
「友人の話になりますが、夫は何時間もかけてやたら凝った料理を作り、妻がキレていました。何時間もかけてつくる料理はいらないのよね。そんな時間あるなら、2時間子ども抱っこしといてくれという……時短勤務ならさすがに何時間も料理しないでしょ」
また、2人目、3人目となると、勝手が違ってくるからでもある。
「子どもが2人、3人となると、夫がいたほうが物理的に助かる場面は多いと思う。上の子の幼稚園や保育園の送迎、スーパーへの買い出しとか。特に産後すぐは、赤ちゃんから目が離せないし、母親の身体もまだ回復途上だから、外出しにくいからね」
小学1年の子どもを育てる女性は、「夫は基本的に役にたたない」とばっさり。それでも「いないよりはマシ」と話す。自分の親がいつでも手伝いに来れるとは限らないからだ。
「産後って出産の際に骨盤が開いているので、ビックリするくらい歩けないの。2週間後くらいで近所のスーパーに行ったときに驚いた。妊娠と出産は病気じゃないといわれるけど、体がしんどいのは同じなんだよ。自分が熱を出しても、おむつ変えやミルクや母乳あげないといけないからしんどくて。誰かいてほしい。役立たずの夫でもマシかな」
誰とも話さない日々もきつかったそうだ。
「いわば、慢性睡眠不足での引きこもり状態。手伝いにきていた母親が帰ったあと、子どもをあやすのがつらかった。なぜか、赤ちゃんって夕方の黄昏時に泣くんです。夕焼雲を眺めながら、ああ、今日も誰とも話さなかったな、と思ったりして。毎日夕方が来るのが憂鬱でした。いま思うと、産後うつだったのかな」
だから、役立たずだとしても話し相手としているだけでもいいのだという。さらに、この女性いわく、長い目でみれば、新制度を「夫の教育期間」とみなして、力不足でも夫に育児に参加してもらった方が、のちのち妻は楽になるそうだ。
こうした考えになったのは、このコロナ禍で夫に変化がみられたことも大きい。
「夫が朝ごはん係になりました。はじめはみそ汁の具が生で殺意を覚えましたが。でもいまではみそ汁を沸騰させなくなりました」
子育て以上に、夫育てには忍耐がいるとしながらも、こう話す。
「夫にイラッときて育児や家事の参加をあきらめると、夫婦でスキルがどんどん差が開き、手際の悪い夫にますますイライラして、妻が背負い込むという負のスパイラルにはまるので。最初は役立たずでも、下手でも、不安でもがまんして任せた方が、妻はあとあと楽ですよ」
ただし夫の両親とは、「戦った」という。義両親は昭和の価値観で、「息子に育児をさせるなんて」と眉をひそめられたという。
「女は仕事をやめて子育てって信じている人たちはいまだに存在しますよ」
となれば、さまざまな価値観が混在する時代に、あえて「男性産休」制度化には意味があるのかもしれない。
一方、女性ではないが、管理職の男性からはこんな意見があった。
「批判されることを承知でいいますが、もし部下が産休をとりたいといったら、おまえにはほかにやることがあるだろう、と言いたいです。その分、奥さんが稼ぐならいいでしょうけど。つまり、男女問わず、稼げる人は稼いだ方がいいと思います」
確かに、休めば収入は減る。お金の問題をリアルに考えた発言かもしれない。雇用保険から育児休業給付金がでるが、おおざっぱに説明すると180日目までは賃金日額の67%、それ以降は50%に相当する額だ。
報道によると、来年の通常国会に、育児・介護休業法の改正案を提出し、2022年度からの実施を目指すという。当事者にとって使いやすい制度になるか、今後の審議から目が離せない。(AERAdot.編集部/鎌田倫子)
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2020/12/13 17:00