
「朝起きられず学校に行けない」 不登校の原因にもなる「起立性調節障害」とはどんな病気?
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不登校の子どもの3~4割にみられると言われる起立性調節障害。朝の体調不良が特徴的な症状ですが、学校に行けない原因が起立性調節障害によるものなのか、それ以外の要因があるのか、どのように見極めればよいのでしょうか。チェックする方法や症状、かかりやすい年代などについて、昭和大学保健管理センター教授で小児科専門医の田中大介医師に聞きました。
どんな症状があるの?
Q 不登校の原因にもなる起立性調節障害とは、どのような症状がありますか?
“起立性”というのがポイントです。立ち上がったとき、寝ている姿勢から上体を起こしたとき、あるいは立ち続けているときに頭痛、立ちくらみ、めまい、吐き気といった症状が出現します。一方、必ずしも起立状態ではなく、座っていても下半身に血液がたまり、頭や上半身の血液が少なくなる点も注意が必要で、学校での授業終了後、イスから起立したときにふらつくというのもよくある症状です。
また、朝なかなか起きられずに午前中のうちは調子が悪く、夕方から夜にかけては元気になるのも典型的な症状の特徴です。学校というのは、通常、朝通学して午前から午後にかけて活動する場です。つまり起立性調節障害は、学校に通うための生活スタイルを送れなくなる病気ともいえます。
Q なぜ発症するのでしょうか。
第二次性徴が始まる時期、いわゆる思春期になると身長が急速に伸び、ホルモンの分泌が変化します。こうした身体的な変化に自律神経(交感神経と副交感神経)の発達がついていけずにうまく調節できなくなります。自律神経は血圧や心拍数をコントロールしているので、起立性調節障害になると、その働きに不具合が起き、からだを起こしたり、立ち上がったりしたときに下半身に血液がたまり、脳への血流が低下して立ちくらみやめまいなどの症状が出るのです。また、朝調子が悪いのも自律神経の調節がうまくいかないためです。休息モードである副交感神経(血圧や脈拍を下げる)が優位な状態から、活動モードである交感神経(血圧や脈拍を上げる)が優位な状態への切り替えがスムーズにいかないのです。
起立性調節障害になりやすいタイプはいる?
Q かかりやすい年代は?
第二次性徴が始まる小学校高学年くらいから増え始めます。日本小児心身医学会によると、小学生の5%、中学生の10%が発症していると言われています。受診する年代は中学生が多いですが、話を聞いてみると小学校高学年くらいから症状が出ていた子も少なくありません。一方、低学年の子が起立性調節障害を疑って受診するケースもありますが、検査をしてみると当てはまらない場合が多いです。この場合は起きられない理由、学校に通えない理由がほかにないかを確認することが大切です。高校生になってから発症することもあります。一方、小中学生のときに起立性調節障害があっても高校生になると9割以上は回復します。
Q 起立性調節障害を発症しやすいタイプの子はいますか?
心理的なストレスが引き金となるという指摘もありますが、はっきりとしたことは明らかになっていません。また、几帳面で真面目な性格な子どもが発症しやすいとも言われています。成長過程における自律神経の不調なので、思春期の子は誰でも発症する可能性があるといえます。
Q 遺伝はありますか?
遺伝子レベルで解析されているわけではありませんが、約半数に遺伝傾向がみられると言われています。保護者世代は起立性調節障害という診断を受けていないことも多いですが、診察の際に「お父さん、お母さんが子どものころはどうでしたか?」とたずねると「学校の朝礼で倒れたことがある」「10代のころは朝起きるのが苦手だった」とおっしゃることがあります。
病気の可能性を調べるチェックリストは?
Q 起立性調節障害かどうかをチェックするポイントはありますか?
起立性調節障害の身体症状には次のようなものがあります。
□立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
□立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる
□入浴時、あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
□少し動くと動悸、あるいは息切れがする
□朝なかなか起きられず、午前中調子が悪い
□顔色が青白い
□食欲不振
□おへその周りの腹痛(臍疝痛・さいせんつう)をときどき訴える
□倦怠(だるさ)、あるいは疲れやすい
□頭痛
□乗り物に酔いやすい
『小児心身医学会ガイドライン集改訂第3版』では、上記11項目のうち三つ以上、あるいは二つでも起立性調節障害が疑われる場合には、適切な対応が必要としています。ただし、あくまでも疑われる状態なので、診断には起立直後の血圧や心拍数を調べる「新起立試験」を受けることが不可欠です。
親はどんな声かけをしたらいい?
Q 不登校が起立性調節障害によるものか、別の理由があるのかを見極める方法はありますか?
私の外来で、起立性調節障害の患者さんに学校に行きたいかどうかを聞くと、9割以上が「行きたい」と答えます。もし「行きたくない」と答えた場合には、その理由を丁寧に確認する必要があります。場合によっては、学校でのトラブルなど別の理由があることが考えられます。また、起立性調節障害であれば、夕方から夜にかけては元気になってスマホやテレビを見て笑ったり、ゲームを楽しんだりする傾向がありますが、夜になっても笑顔が全く見られない、元気がないといった場合は、抑うつ状態など精神的な不調も考えられ、注意が必要です。
Q 朝起きられない子どもに対して、保護者はどう声をかければいいですか?
朝はぐったりしているのに、午後になると走りまわったり、ゲームをしたりと絶好調。でも翌朝になると元気がなくなる。毎日このサイクルを見ていると、保護者としては朝の不調はサボりや怠けなのではないかと疑いたくなることもあります。疑うまではいかなくても、つい「もっとちゃんとしなさい」「少しはがんばりなさい」などと声をかけてしまうこともあるでしょう。しかし、このサイクルが起立性調節障害なのです。本人ががんばったところで、また、早く寝たところで、朝の調子がよくなるわけではありません。そのことをよく理解したうえで、声がけをすることが大事です。
起立性調節障害がある子は自分のつらさをうまく表現できない、伝えられない場合があります。伝えたところで、否定されてしまうこともあります。すると自分が悪いのではないかと思い、自分は親の期待に応えられないダメな子だと感じるようになる可能性があります。自尊感情の低下は症状を悪化させ、長引かせる要因になりかねません。
朝起きられない子から、「〇〇で困っている」「〇〇でつらい」など、保護者や学校の先生が相談を受けた場合、次のような声がけを意識しましょう。起立性調節障害のみならず、子どもからのさまざまな相談に対応するうえでのポイントになります。
①受容する 「うん、うん、そうだったの」
②共感する 「それはつらかったね」「大変だったね」
③支持 「それでいいよ」「お母さんもそう思うよ」
④保障 「大丈夫だよ」「心配ないよ」
⑤援助 「助けるよ」「相談にのるよ」
また姿勢同型といって、子どもから小さい声で話しかけられたら小さい声で返す、座って話していたら、座るというように声量や姿勢を同調させると、子どもは安心感を抱きやすくなります。
田中大介医師の話をもとに編集部で作成
(構成/中寺暁子)
田中大介医師
〇田中大介(たなか・だいすけ)医師/昭和大学保健管理センター所長・教授。1990年、昭和大学医学部卒。昭和大学病院NICU、昭和大学附属豊洲病院小児科などを経て、2019年から現職。22年から昭和大学副学長。日本小児科学会指導医・専門医、日本肥満学会肥満症指導医・専門医。著書に『起立性調節障害 症状と治療』(徳間書店)、『起立性調節障害(OD)朝起きられない子どもの病気がわかる本』(講談社)など。