
不登校と「子離れ」は相性がいい 「やめたい」「行きたくない」と意思表示できたらまずほめて
やってみたらイメージしていたのと違った、なんてことはよくありますよね。経験の少ない子どもの場合、大人よりもっと「違った」と思う確率は高いのかもしれません
3人の子どもの不登校を経験し、不登校の子どもやその親の支援、講演活動などを続ける村上好(よし)さんの連載「不登校の『出口』戦略」。今回のテーマは「不登校と子離れ」です。
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前回の記事では、不登校家庭にありがちな親子の「負の連鎖」について、断ち切ってくれるのは「他人」が吹き込む新しい価値観だというお話をしました。今回は、不登校と密接にかかわっている「子離れ」について、具体的な事例を挙げてお話をしたいと思います。子離れって難しいんですが、不登校はいい機会になります。
子どもの不登校に悩むオカンをひとりにしないことを目的に、私が立ち上げた「オカンの駆け込み寺」で、相談を受けた事例です。
中学受験の勉強に励んでいた6年生の女の子が、夏頃から不登校に。今まで仲良し母娘だったお母さんは、理由を聞いてもそっけない返事で、我が子の変化に困惑し、「どうしたらいいかわからない」「このまま受験勉強を続けるべきかどうか」ということで相談にいらっしゃいました。
中学受験は親の関与度合いも高いので、我が子が受験勉強に一生懸命になっていればいるほど、親なら誰しも「サポートしてあげたい」と思うのではないでしょうか?でも、どこまでが必要なサポートでどこからが過保護になってしまうのか、という点は悩みどころだと思います。
中学受験期の子どもたちは、少しずつ思春期に差し掛かっていきます。思春期は親から自立する大事な時期。親に反抗的な態度を取ってみたり、生意気な口答えをしたり、親としては、この時期の子どもとどうやって向き合っていけばいいのか、本当に頭を抱えてしまいますよね。
この女の子は、5年生の時に本人の希望で受験塾に通い始めました。仲良しのお友だちが通い始め、その影響で自分も受験したいと思うようになって、親もそれに賛成したということでした。
しかし、子どもですから、実際に塾に行ってみたら思っていた以上にカリキュラムの進みが早く、ついていけなくなる、次第に塾がつまらなくなる、ということはよくあります。やがて塾に行きたくなくなり、休みがちになり、受験勉強にも身が入らなくなる、という流れです。やってみて初めて、「あれ、なんか思っていたのと違うな」ということに気付くんですね。
経験がないわけですから、これは仕方のないことですし、本来は「受験をやめる」という選択肢は、最初から念頭に置いておくべですよね。でも、多くの親御さんは、「自分がやるって言って始めたんだから、最後までやりなさい」「途中で投げるなんてよくない」と言ってしまうのです。
これは、他の多くの習い事にも当てはまります。「やめぐせがつく」「逃げぐせがつく」と言って本人が言い出した習い事をなかなかやめさせない親御さん、多いんじゃないかと思います。
ここで、よく考えてみてください。習い事であれ塾であれ、子どもが自分から「やってみたい」ということ自体に「主体性」があります。これ、「ほめポイント1」です。そして、実際に体験してみて、「自分には合わないな」と自分で感じることができ(「ほめポイント2」)、やめるという決断を自ら下すことができ(「ほめポイント3」)、親に自分から「やめたい」と言える(ほめポイント4」)。ここまでに、ほめるべきポイントが4つもあるのですから、このプロセスを受け入れてあげるといいのではないかと私は思います。
「自分でやろうと思ったのってすごいよね」
「自分の気持ちに気づけてよかったね」
「自分の気持ちを大事にできたね」
「やめたいっていう自分の気持ちを言うのって勇気いったよね」
こんな言葉と共に「気持ちを伝えてくれてありがとう」と、子どもの主体性とプロセスの部分にフォーカスした言葉かけをしてみると、子どもは「親は自分の気持ちを受け入れてくれた」「自分のことを信じてくれている」と、信頼感も安心感も増していきます。すると、自分にも価値を感じ、自己を確立できて、自己肯定感が育っていきます。これが結果的に、自立の道、親離れへとつながっていくのです。
こういうときに、親が「この子は自分の気持ちを自分で理解して、意思を持って伝えてくれるようになったな、成長しているな」と思えるか、「まだまだ危なっかしいから私がしっかりとコントロールしなくては」と考えるかで、ここから先はだいぶ変わってきます。
中学受験って、一度足を踏み入れるとなぜか抜け出しにくいのは事実です。とりあえずやってみる?程度だったとしても。魔物ですね photo 写真映像部・佐藤創紀
親の覚悟も関係してくるのですが、「子どもには子どもの意思があって、私の意見とは違って当然」とわかっていれば、子どもが決めたことに関してはあまり口出しをせず、信じて見守ることができます。子どもが決めたことで子ども自身が失敗しても、経験値が上がるからよし、と考えることもできます。
一方で、以前の私も含め、多くの親御さんは子どものことがかわいくて、心配の方が大きくなり、「大丈夫かしら……」という親心から先回りして、いろいろと助言しすぎたり、やらなくてもいい世話ばかり焼いたりしてしまいます。結果、子どもは自分で選び取るということができなくなります。すると、何から何まで親がコントロールしないといけなくなり、子どもはますます主体性がなくなり、意欲も低下して、自分の意見を親に伝えることをしなくなってしまいます。
相談者のお子さんも、本当は受験勉強をやめたいのに言えなくなって、頭がいたい、おなかが痛いといって塾を休むようになり、次第に学校にもいけなくなってしまいました。
オカンの駆け込み寺では「ことばかけ」「食事」「住環境」の観点から不登校の支援をさせていただいていますが、このケースではまず、お子さんへの関わり方をアドバイスさせていただきました。本当の気持ちを引き出すために、ことばかけを少しずつ変えていく方法です。
いままでは一方的に親が決めたり、代弁したりしていたようなので、子どもの意思を尊重することばかけをしてもらうようにしたのです。
例えば、「なんで塾に行けないの?理由を教えて」と聞くと黙り込んでしまうので、「算数は今どういうことを教えてもらっているのかな?お母さんにも教えてもらえる?」などと聞いて、子どもが頑張って取り組んでいることに親も興味を持つ。その上で、「へ〜、こんな難しい問題解いているんだね。すごいなぁ。結構難しそうだけど、ついていけてる?」と声をかけると、「実は算数が難しすぎてついていけないんだ」と教えてくれたりします。「授業はわかるんだけど先生が怖くて……」などと、本音が出てくることもあります。
あるドラマで、紺色のランドセルを手にした女の子が「お母さんが選んだの?」と聞かれて「私に選ばせてくれた」と答える場面がありました。そういうことなんですよね photo iStock.com/mamahoohooba
親は人生経験が長い分、プロセスを端折って結果に早く近づく方法を知っているので、「理由」の部分を端的に答えてもらえると思いがちですが、そもそもその「理由」に行き着くには背景の構造を理解する必要があり、それには自己認識が必要になってきます。人生経験が少ない子どもたちは、「自己認識」が十分ではなく、何か嫌なことがあっても、それは何が原因で、その結果なぜ今自分がこのように嫌なのだろうという背景の構造を理解できてない可能性があります。だから、大人が「なんで?」と理由を聞いても、言語化がうまくできずに黙ってしまったり、その場しのぎの言葉を発してしまったり、何度も同じ質問をされて「別に」「特にない」と答えるようになっているのではないかと私は考えています。
自己認識できるようになることばかけについては、この連載の第5回目でお話した「二者択一」のところをご覧いただくとヒントになると思います。ことばかけを変えていくことで、子どもの心をほぐして、気持ちとことばを引き出して、受け止めてあげることで、心が育っていくのです。
子どもは大人が思っている以上にいろんなことをちゃんと考えています。学校現場で中高生の話を聞いていると、お母さん、お父さんに心配をかけまいと遠慮したり、悲しませたくないと自分の気持ちを我慢したり。だからこそ、「あなたにはあなたの意見があるんだから、その考えを言ってもいいんだよ」「失敗することもあるかもしれないけど、それも人生経験!大丈夫!」「失敗は経験値のアップだね」と声をかけ、少しずつ親のコントロールを弱めていって、子ども自身に舵取りをさせる機会を増やしていくことが、子離れの第一歩になるのではないかと思います。
さて、相談者のお子さんですが、ことばかけを変えてみたところ、塾がしんどい、勉強についていけないから困っている、と徐々に話してくれるようになり、その意思を尊重して中学受験をやめることを決断しました。塾もやめ、好きな絵を描く時間をたっぷり取れるようになりました。食事のご指導もさせていただき、住環境も整えたところ、すっかり気持ちが緩んで私とオンラインで会話もできるまでになり、6年生の終わり頃には少しずつ登校できるようになりました。卒業式にも出席できて、地元の中学校に進学し、部活にも入って楽しい日々を生活を送っているとご報告をいただいています。
子離れというと、親としてはなんだか寂しい感じもしますが、やはり子どもは親とは別の生き物。まったく別の人生を送るわけです。もしいま、あなたが子どもの不登校という事態に直面しているなら、「いまが子離れの時期かもしれない」と不登校をとらえ直してみてください。自分の子育てを振り返る良い機会だと思えたら、不登校を悪いことと捉えずにすみますし、前向きな気持ちになれるのではないかと思います。
次回は8月20日配信。「ことば」「食事」「住環境」を整えるとなぜ不登校が解決していくのか、ということについてお話をしたいと思います。