「生きものは複雑で、矛盾だらけ」と、生命誌研究者の中村桂子さんは語ります。登山地図GPSアプリ「YAMAP」の開発者、春山慶彦さんと中村さんが、「無駄の大切さ」について語りました。春山さんの著書『こどもを野に放て! AI時代に活きる知性の育て方』(集英社)からお届けします。

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無駄の大切さ

春山慶彦(以下、春山) 今、遊びや無駄、余白といったものが、どんどん社会からなくなっていっています。効率に押されて、ぼーっとしたり、何も考えない時間がなくなりつつあると思います。

中村桂子(以下、中村) 以前、縄文時代の狩猟採集民は、毎日必死に獲物を追いかけていたと考えられていたけれども、実際はそうではなかったことがわかってきましたよね。現在、アフリカで狩猟採集をして暮らしている人たちの調査でも、狩りをしている時間はとても短くて、週に15時間くらい、実働時間は我々よりずっと少ないですね。おそらく古代の狩猟採集民もそのような感じで、時間がたっぷりあったことでしょう。周囲の自然から、基本的な衣食住が得られれば、それ以上に働くこともなく、あとはゆったりとみんなでおしゃべりしたり、空想の世界で遊んだりしていたのではないかと思います。

春山 そうですね。歌ったり、踊ったり。

中村 人間は生きものであると考えると、本来はそういう無駄なものが欠かせないと思います。というのは、生きものは無駄があることで続いてきたからです。

 生きものの基本的な仕組みはとても合理的です。そうでないと動かない。でも、一方で、たくさんの無駄も抱えているのです。

 たとえば、新型コロナウイルスのパンデミックで免疫ということが盛んに言われるようになりましたけれども、私たちの身体の免疫は、異物を捉える受容体を持つ免疫細胞によって支えられています。免疫研究がはじまったときは、外から異物が入ってきたら、その都度、それに対応する受容体を持つ免疫細胞を生み出すと考えられました。効率を重視するならばそう考えるのが普通ですし、合理的ですよね。

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春山 慶彦
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