しかしその後の鉄道の衰退は急だった。見る間に飛行機と車に乗客を吸いとられていく。荘厳な駅舎は、しだいに広さだけが目立つようになっていく。やがてその駅を放棄し、道の反対側にある商業ビルの地下に駅機能を移すことになる。
改札口の手前で振り返ると、地下通路が旧駅方向に向かってのびていた。行ってみると、旧駅の地下に出た。
「ほーッ」
思わず見あげてしまった。高い天井は明かりとりになっていた。その光に映し出される世界は大きな教会の内部のようだった。ここがよく写真で登場するグレートホールだった。かつての待合室である。木製のベンチが並んでいる。
昔、『アンタッチャブル』という映画を観た。主演のケビン・コスナーがまだ若い頃の映画だ。マフィアとの銃撃戦は、この駅で撮影された。あかちゃんを乗せた乳母車が石の階段をガタン、ガタンと落ちていく。それが合図のようにして銃声が響きはじめる。
そのシーンが記憶に残っている。
グレートホールは当時のままに残されている。いまは記念館のような趣すらある。イベントにも使われるというのだが。
映画で銃撃戦が撮影された階段をのぼって旧駅舎を出た。道の向かいには、味気ないビルがあるだけだった。