さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第38回はアメリカのシカゴ・ユニオン駅から。
* * *
世 界的に見れば、鉄道は衰退していく世界である。しかしこういう建物を目の当たりにすると、そこまで……と考え込んでしまう。
シカゴ・ユニオン駅に行こうとしていた。道路に沿って、石づくりの建物が見えた。見あげるほど大きい。正面にユニオン駅と書かれている。
アメリカには国鉄がない。すべてが私鉄。駅は利用する私鉄が資金を出し合って建てる。だからアメリカの駅はユニオン駅だらけなのだ。
入ろうとすると、ドアの前にいた警備員に声をかけられた。
「列車に乗るの?」
「昼過ぎに発車するロサンゼルス行きに」
「だったら、あっちだよ」
指さされたのは道路の反対側だった。どこにもありそうなビルが建っていた。いぶかしげに眺めると、警備員がこういった。
「あそこにドアが見えるだろ。そこから入って地下に降りれば駅だよ」
たしかにそこが駅だった。その規模は地下鉄のターミナル駅と大差がない。
だいぶ昔といっても、たかだか70年ほど前、シカゴ・ユニオン駅には1日に300本もの列車が乗り入れ、1日に10万人が利用していた。太平洋とヨーロッパでは、第2次大戦が激しさを増していたというのに、この駅は空前の賑わいをみせていたのだ。