私は平素から、「医師は肉体労働だ」「寿命は短い」「若いうちからセカンドキャリアを考えるように」と指導している。

 20~30代の医師の週の労働時間は、平均で80時間を超える。これは労働安全の観点からは由々しき問題だが、職業柄、やむを得ない面もある。

 そこまでするのは理由がある。多くの患者を診なければ、実力がつかないからだ。患者は、こちらの都合に合わせて、病院を受診してくれるわけではない。医師が患者に合わせて、待機しなければならないのだ。ゆえに長時間勤務は避けられない。

 医師は体力勝負だ。一人前になるには、診療だけでは不十分。勤務時間外に勉強し、学会発表や論文作成をしなければならない。若くなければやっていられないことが多いのだ。

 医療現場で、この問題が俎上に上ることはなかった。それは、我が国の診療報酬(患者および保険組合が支払う医療費)が高かったからだ。診療報酬は厚労省などが全国一律に決める公定価格だ。物価が高い東京でも医療機関を経営できるくらいだから、地方ではさぞかしもうかっただろう。ゆえに病院は中年を過ぎて働きが悪くなった医師を高給で抱えることができた。学会や講演会という名目で休診する医師も、雇い続けられた。

■駅ナカ診療で桁違いの患者数に

 少子高齢化が進む日本では、社会保障費の抑制が喫緊の課題でもあり、厚労省は診療報酬を抑制している。医療費の総額こそ増えるが、患者が増えるため、「利幅」は薄くなると考えられる。すると、病院の経営は急速に悪化する。首都圏の総合病院で、賞与の支払い遅延などが起こっているのは、このためだ。従来型の勤務医の年功序列賃金体系は崩壊せざるを得ない。

 医学部を目指す若者たちは、必ず、このような試練に遭遇する。生き残りたければ、自らの付加価値を高め、新しい成長領域に進出しなければならない。

 前述の夫妻にとってロールモデルになったのは、彼らの先輩医師たちだった。例えば、東大医学部の先輩である坪倉正治医師(35)は、東日本大震災以降、東京と福島を往復して被曝(ひばく)対策に専従している。これまで10万人以上の住民の内部被曝検査、および相談に従事した。彼のもとには、米国の陸軍など世界各地から専門家が訪れている。イギリスのある大学からは、日本と兼業で雇用したいとオファーしてきた。従来の専門医とは異なる存在だ。

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