![溢れんばかりの中国人観光客がチェックインカウンターに並んでいる](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/a/3/620mw/img_a321d5370833843f45e9f54b51c0f37287710.jpg)
![フライト案内は中国語表示も。ターミナル2が国内線専用になり、混雑はちょっと解消](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/3/2/620mw/img_32b5afe1dcb4c5bdb437a7f10617385279111.jpg)
![バンコク・ドンムアン空港で飛行機に乗り込む](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/6/8/620mw/img_68e3556b69cf86baac753b5eb1f67a6081518.jpg)
さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版、「世界の空港・駅から」。第2回はタイのバンコクから。
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ここは中国か……。ときどきつぶやくことがある。チェックインカウンターに並ぶあふれんばかりの中国人観光客。飛び交う中国語。最近、その傾向はとくに強くなってきていた。
バンコクのドンムアン空港である。
かつてバンコクの玄関はこの空港だった。さまざまな思いが詰まった空港である。つらい日本の社会からの逃避行の入り口でもある。アフガニスタンでアメーバ赤痢を患い、やっと到着したこの空港で、「ここまでくればなんとかなる」とつぶやいていたこともあった。アフガニスタンの病院は戦闘で破壊され、満足な治療も受けられなかったからだ。
2006年、バンコクにスワンナプーム空港が完成した。ドンムアン空港は、その時点で役割を終えたかに見えた。しかしLCCの便数が急激に増え、再開港することになる。以来、バンコクのLCC専用空港のような役割を果たしている。アジアを代表するLCCであるエアアジアも、この空港をタイの拠点にするようになった。
LCCの乗客を探す臭覚は鋭く、エアアジアなどのLCCは中国路線を充実させていく。就航路線は、上海、広州といった大都市だけではない。武漢、長沙、西安、汕頭といった中堅都市まで広がっていった。添乗員が手にする旗に先導されて、中国人が続々とこの空港に降り立つようになった。
日本はいま、急増する中国からの観光客に右往左往している。マナーの悪さに顔をしかめつつ、温かくなる財布に頬が緩むという複雑な表情をつくる日本人も少なくない。
しかしタイは日本の倍以上の中国人観光客を受け入れている。タイを訪れた中国人は2014年には約800万人。2015年には1000万人を超えたのでは……といわれている。日本政府観光局の発表では、日本を訪れた中国人は2014年が約241万人、2015年が約499万人である。
中国からバンコクにやってくる観光客は、スワンナプームとドンムアンというふたつの空港で受け入れている。ドンムアンは中国の地方都市を結ぶLCCが多い。はじめての海外旅行組が、中国の流儀を引っ提げてドンムアン空港にやってくるわけだ。
当然、トラブルも多い。列への割り込みは日常。エアアジア機内で怒った中国人が客室乗務員にカップ麺のスープをかけるということも起きた。タイのLCCであるオリエント・タイの重慶行きの便が悪天候や点検で遅れ、怒った中国人が謝罪と賠償金を要求し、「中国人を尊重しろ」と国歌を歌うトラブルも起きている。
しかしそこはおうようなタイ人。軽く受け流して、しっかりもうけている。中国人で混みあうドンムアン空港は、タイ人の世渡りのうまさを学ぶ場でもある。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など
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