「スマホやネットを使えないと、孫に『おじいちゃんやおばあちゃんて、何もわからないんだね』と言われてしまう。孫と会話が弾むようになりたい、との焦りもあり、携帯をスマホに買い替えました」
加えて、お年寄り自身も家族も、デジタル機器で脳に刺激を与えたほうが、脳のトレーニングや認知症防止にもよいだろうと、熱心にスマホを使う。
しかし奥村医師は、脳を使うことが、必ずしもいいわけではないと言う。
「疲れているときにデジタル機器を使ったり、脳トレをやりすぎたりすると、記憶や、感情のコントロールをつかさどる脳の前頭葉部分が疲労を起こしてしまう。刺激どころか、逆効果です」
脳の疲れが進むと、うつ病を発症し、本当の認知症に進行する可能性もある。
奥村医師は、子どもも大人もスマホを遠ざける時間をつくり、なるべくアナログの生活を意識することを勧める。触覚、味覚、嗅覚といった五感を使うほうが、むしろ脳への刺激は強い。
新型コロナの影響で、不要不急の移動や外出の自粛が強く要請されるなか、自宅に閉じこもる生活が続く。
それでも、五感を使った生活を心がけることはできる。SNSに日々の生活を記録する代わりに、紙とペンを使って絵日記に挑戦してもいい。学校の課題も、ネットのサイトで調べて終わるより、自宅にある百科事典や図鑑をめくろう。本を棚から取り出し、ペンを持ち、文字や絵を描く。すべての作業は五感を刺激し、脳を使う。
人の少ない早朝に、スマホを自宅に置き、地図を片手の散歩もいい。状況がよくなったら公園や川べりに足を運び、花や新緑の香りに包まれてはどうだろうか。(本誌・永井貴子)
※週刊朝日 2020年5月1日号