学校から帰宅した子どもは、トン、トンと指で数回タブレットの画面に触れるだけでYouTubeの動画を再生しゲームを始められる。現実の世界で「天下統一」は無理でも、シミュレーションゲームならば王様になることもできる。
やっかいなのは、スマホやタブレットが、子どもにとっては「便利で飽きず」、親や祖父母にも「コスパに優れた」道具である点だ。
遊園地に遊びに行っても、室内でパズルに熱中しても、ある程度、遊べば子どもは飽きてしまう。親は、お金を出して新しいレジャー先か新しい玩具を探す必要がある。しかし、ネット環境があれば、子どもが食いつく動画は無限に出てくるし、新しいゲームが次々に開発される。小型で持ち運びも苦にならず、電車でもレストランでも場所を選ばず、子どもを静かにさせてくれる。まさに「魔法の箱」だ。
親の側でも、子どもに持たせるべきか否かのハードルは確実に下がった。
おまけに東京都をはじめ全国の自治体でも、「防災の観点から」という理由で、公立の小中高校へのスマホや携帯電話の持ち込みを認める方向に動きつつある。
子どもにスマホを与える大義名分は増え、逆に禁止をする理由は、「子どもには早い」「目が悪くなる」というあいまいな理由ぐらいしか思いつかない。
19年度の内閣府の調査によれば、小学生の動画やゲームを含むネット利用率は86.3%にもおよぶ。
小学2年生と5歳の子どもを育てる母親もこうため息をつく。
「娘たちがYouTubeやLINEのスタンプ機能をおもしろがってずっとスマホを持っている。取り上げると怒りだして、手がつけられない」
依存物に熱中しすぎると、次に待ち受けるのは、「不快」を伴う離脱症状だ。中山医師が続ける。
「スマホなどを使えず快楽が得られない時間が続くと、イライラなどの不快感に襲われます。人間は快楽を我慢することはできても、不快感に耐え続けるのは難しい」
不快感を解消するため依存物をまた手に入れようとするのだ。