需要が激減する会社があれば、人手が足りない会社もある。そんな危機を前に、従業員をシェアして雇用を守るというアイデアが出てきた。人材の流動性を高め、社員の成長にもなると期待する声が上がる。AERA 2020年6月22日号は「コロナ時代の働き方」を特集した。
【写真】出前館で注文を受けた商品をタクシーで宅配する日の丸交通の乗務員
* * *
「このネットワークの構築は、アフターコロナでの新しい雇用のあり方の提言につながっていくと確信しています」
レジャー関連のオンライン事業を展開する「アソビュー」社長の山野智久さん(37)が、投稿ウェブサイト「note」で「災害時雇用維持シェアリングネットワーク」構想を発表したのは4月21日。新型コロナウイルスの緊急事態宣言が全国に拡大されて5日後のことだ。
一人でも多くの雇用維持を実現させる──。山野さんがこう力強く宣言し、社員の出向と受け入れを希望する企業を同時に募ると、瞬く間にフェイスブックやツイッターでシェアされた。「参加したい」という経営者らの声が1日で約300件も寄せられた。山野さんが打ち出したのは「従業員シェア」という新しい仕組みだ。企業間ネットワークを生かし、新型コロナの感染拡大で休業状態にある企業の従業員が、「巣ごもり消費」に伴う需要増で活況を呈する宅配やオンライン系の他業種で一時的に働くことで収入や雇用の維持を図る。
山野さんは、4月の売上高が前年比95%減という苦境に直面し、社内で議論を重ね、独自の雇用維持策を練り上げた。構想が具体化するにつれ、こんな思いが膨らんだ。
「これを活用すれば、他の企業も『解雇しか選択肢がない』という状況を変えられるんじゃないか。このアイデアを一人でも多くの経営者に知ってもらいたい」
仕組みの概略はこうだ。企業間の人材マッチングは、登録メンバー内で閲覧、発信できるフェイスブックのグループ機能を活用。元の会社に籍を残して別の企業で働く「在籍出向」とし、出向期間は1年以内。給与は出向先企業が全額負担。支給額は出向先企業の基準に則るが、出向前の給与維持を原則とする。