企業間の従業員シェアは契約内容によって雇用形態や給与システムが異なるものの、人材の受け入れ側が人件費を負担する点は共通する。

先駆けは中国だ。受け入れ企業が従業員の元の所属企業に賃金分を払い、従業員は元の職場から賃金を得る形の従業員シェアで、3月末時点で400万人以上の収入を維持したという。行政の後押しも進む。広東省深セン市は従業員シェアを支援するオンライン上のプラットフォームを整備。需要側と供給側のマッチングや、就職までのプロセスも管理するシステムが企業や個人に開放されている。他市でも同様の動きがあるという。

野村総合研究所上級コンサルタントの李智慧(りちえ)さんは「感染がほぼ収束した後も中国でこのような仕組みづくりが進むのは、アフターコロナにも柔軟な雇用形態を迅速に構築できれば、より効率的に経済を回せるとの判断が官民双方にあるからです」と背景を解説する。

従業員シェアの導入に当たっては労働者の権利が損なわれないことが重要だ。中国では、日本の厚生労働省に相当する「人力資源」と「社会保障部」が3月23日に公式アカウントで法規制面の見解を発表。その中で、労働者には従業員シェアを拒否する権利があること、労働災害の際は原則として送り出す企業側に補償義務があるといった法的論拠を明示したという。(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年6月22日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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