藤本さんによると、スポンサーは競技会場内での広告掲出はできないが、会場周辺などでは集まった観客に対して商品やサービスを紹介、試してもらうといった活動を独占的に行うことができ、各企業はそうした活動も想定して契約を結んでいる。
「国内スポンサーは20年12月31日までの契約を結んでいるが、NHKが5月に実施した調査では65%の企業が契約を延長するか決めていないとのこと。無観客や観客を減らすという可能性も出てきた中で、今後スポンサーがどう判断するのか、21年のスポンサー契約をどう再構築していくのかがポイントになる」
もう一つ見落とせないのが、1年間の延期とコロナ対策で発生する、3千億円とも言われる経費の増加だ。「簡素化」で経費削減を目指すとはいえ、そこにチケット売り上げ減まで加われば、大幅な赤字は必至。IOCは組織委員会に対して、6億5千万ドル(約700億円)しか追加負担しない方針とされる。
東京五輪の経費では、組織委員会の予算とは別に、競技場建設などで東京都が5970億円、国が1500億円を支出している。組織委員会が大幅な赤字となれば、都や国が巨額の費用を追加負担せざるを得なくなる公算は極めて大きい。コロナ禍への対策に追われるなか、都民や国民の支持を得られるかどうか。7月5日に投開票される都知事選でも五輪の中止や簡素化が争点に浮上している。
コロナ以前のように隣の人と肩を触れ合わせ、歓声を上げて観戦するスタイルに変化が求められる中、「新たな観戦文化が生まれる」と期待する専門家も多い。前出の間野さんは言う。
「5月にスポーツ観戦について調査したところ、座席で応援しているとき以上に、大勢の人が同じタイミングで集まることや行列に並ぶことをリスクに感じている人が多かった。それなら食事は予約して指定の時刻に売店に取りに行き、トイレの混雑具合は携帯で確認できるようにするなどの方法もある。人気の高い席に周囲を360度映すカメラを設置し、自宅からVRゴーグルで観戦することも可能です。次世代のスポーツ観戦を加速させるチャンスでもあります」
(編集部・深澤友紀、川口穣)
※AERA 2020年6月29日号より抜粋