「簡素化といっても祝祭空間をある程度維持することは重要。無観客や大幅な入場制限は選手のパフォーマンスにも影響する。密を避けるため入場時間をずらすことや検査を行うなどの手立てを考えながら、できる限り観客を入れる方向がいい」
大会組織委員会参与の間野義之・早稲田大学教授(スポーツ政策論)はこう指摘する。
「無観客や観客数を減らすことは大幅な収入減になる上、チケットの多くは販売済みなので払い戻しなど事務手続きにかかわるコストが新たに発生する」
19年12月に発表した組織委員会の予算では、収入6300億円のうちチケット売り上げは900億円で約14%を占める。だが、16年東京オリンピック招致の際の東京都担当課長で、現在は国士舘大学客員教授を務める鈴木知幸さんは「IOCは、日本側がどうしても中止を避けたいというなら、無観客での開催を仕掛けるのではないか」と話す。
「チケット売り上げの大半は組織委員会の財源になるのでIOCとしては無観客でもそれほど痛くない。むしろ放送権を一括管理するIOCとしては、放送の需要が高まるメリットもある。ただ、自分たちから言い出すと、損失を補償しなければいけなくなるため、日本側からやむを得ず言い出すのを待っているのでは。組織委員会はIOCに『無観客にするなら、日本国内の放送権料は日本に拠出してほしい』と提案したらいい」
無観客や観客減を検討する際、もう一つ目配りが必要なのが、組織委員会の収入予測の大半を占めるスポンサー収入への影響だ。スポーツマーケティングが専門の大阪体育大学の藤本淳也教授は無観客開催についてこう指摘する。
「無観客や大幅な観客減で開催する場合、チケット売り上げ以上に、スポンサーとの契約に影響する懸念がある」
オリンピックとパラリンピックのスポンサーには、IOCが管理する「ワールドワイドオリンピックパートナー」と、大会ごとの組織委員会が契約を結ぶ国内スポンサーがある。東京大会の国内スポンサーからのスポンサー収入は、組織委員会の収入の55%にあたる3480億円(19年12月時点の予測)。リオ大会(約907億円)の4倍近くで、過去最多だ。