とはいえ、秋入学への全面移行を実現するために超えなければならないハードルは少なくない。
まず問題になるのは、(1)高校卒業と大学入学の時期のずれをどうするか、(2)4月入社が多い企業の採用時期と大学の卒業時期のずれをどうするか、の二つだ。
秋入学になると、高校生が現役で大学に受かった場合、高校卒業から大学入学まで半年間の「ギャップターム」が生じる。イギリスなどでは、高校卒業後、大学の授業開始まで1年程度の「ギャップイヤー」があり、海外留学やボランティアなどにあてる学生が多いという。
04年の開学当初から9月入学制度を取り入れている国際教養大(秋田市)は、その「間」を活用した日本での草分け的存在だ。08年度から、入学予定者が入学までの期間、社会奉仕活動に取り組む特別枠の入試まで導入している。
中嶋嶺雄学長は、長所をこう説明する。「受験勉強から大学の勉強へ頭を切り替える時間が持てるので、大学で学ぶことが明確になります。卒業と就職の時期がずれると、3年生の早期からバタバタと就職活動を始めるという今の異常な状況を改善できます。就職できるかどうかは、その学生の魅力次第で、卒業の時期が他大学や企業の採用時期と一致する必要はない。実際、秋入学の学生の就職率は100%で、女子学生のほとんどが総合職に就いています」
なんとも力強い言葉ではある。
ただ、教育機関の事情に詳しい「大学通信」の情報調査・編集部の担当者はこう指摘する。「ギャップタームに留学ができるといっても、家庭に経済的余裕があればの話。放っておかれたら意味がないし、逆に大学が何らかのカリキュラムを組んだ場合、余分な学費をとられるケースも考えられる」
都内の私立高教員も運用には懐疑的だ。「ギャップタームを有効活用するのはごく一部のエリート学生にとどまり、その他多くにはモラトリアム期間になってしまうのではないか。大学全入時代に、ギャップタームを導入するのはナンセンスでしょう」