88年3月開場で築32年が経つ東京ドームは、大きな特徴も歴史も持たない古い球場となった。小手先の改修だけでは印象は変わらない。
「マツダスタジアムは新球場建設の成功例として語られる。大きな理由は約140億円の経費で建設したこと。今回、東京ドームにかける改修費は約100億円と発表された。東京都と広島県では土地や物価など異なる部分が多く、単純比較はできない。しかし同じくらいのお金を使うなら新球場建設を、という声が聞こえるのも理解できる」
「以前から新球場の有力候補地の名前は水面下で出ていた」
具体的な場所がいくつか取り上げられていた、とスポーツマーケティング関連会社代表は解説してくれる。
「注目されたのは築地市場跡地。銀座から徒歩圏内であり、東京湾岸という絶好の場所だった。しかし豊洲新市場移転の遅れなども絡み、時間だけが過ぎて行く中で今回のウイルス問題が起こった。東京都としても球場建設に関わっている場合ではない」
広島・マツダスタジアムの成功で、巨人は新球場の必要性を感じている。自前球場を持つことで収益も桁違いに増える。老朽化した東京ドームからの移転は早い方が良かったが、様々な問題が重なり計画を進められなかった。
「渋谷区代々木公園周辺も候補にあった」と続ける。
サッカー専用スタジアム建設が濃厚なNHK本社のすぐ近くが候補だった。代々木体育館やストリートバスケのメッカもある好立地。周辺駅からのアクセスも良く、ライバル球団ヤクルトの神宮球場までも徒歩圏内。野球が盛り上がる要素満載の場所だった。
「ウルトラC案としてNHK社屋が築地跡地に移転、新球場とサッカー専用スタジアムの両方を代々木に集結させる案まで上がったほど。代々木公園を世界に誇れるスポーツ空間として再整備できる。オタク系・秋葉原などとともに、『クールジャパン』発信地にと目論んでいた。NHKも定期的に巨人戦中継をおこなうなど、両者の関係も良好だった。可能性はゼロではなかったが、他競技等にイニシアチブを握られた格好」
流行最先端の街、渋谷である。巨人は地元に携わる人々の関心の波を掴み損ね、その間に地元の関心はバスケBリーグなどへシフトしてしまったようだ。