「政府とすれば、被災地への遠慮があったのかもしれません。しかし私たちが、食品が安全なのか、と心配するのはごく自然なこと。各家庭でできる限りの対策をとろうと考えることに、後ろめたさを感じる必要はないのです」

 中国3千年の叡智(えいち)を今こそ活用すべきだ。

 一方、日本料理で使われる「灰汁(あく)抜き」や「ゆでこぼし」などによる「毒抜き」が、放射能除去に有効なことが専門家から指摘されている。これを使った「放射能フリー食」に挑戦してくれたのが、関西でおなじみの料理人「林先生」こと、林裕人・元辻学園調理技術専門学校教授(57)だ。

「関西ではそれほど放射能を心配してる人はいてへんけど......」

 そう言って、林先生は鶏肉を使った「ボイルロールチキン」を提案してくれた。林先生が強調するのは調理法だ。

「素材には栄養素もあるけど、エグみや灰汁のようにいらんもんもある。日本料理は、ゆでたり塩漬けにしたりして、いいところを引き出して、いらんとこをのける。要は『毒抜き』や。その一手間をかけること」

 鶏肉は調理前に「毒抜き」のために、塩をふって20分くらい置く。それをふき取って、味付け用にもう一度塩をふってから使う。

「スーパーで買う肉が心配なら、一度冷凍したらいい。先人の知恵で、くさみの強い猪肉などは一度冷凍して離水させ、くさみをとってから料理してきたんや」

 枝豆などの青物野菜もゆでる前に塩をふり、20分ほど置く。ゆでた後、水にさらしてから使う。

「もちろん、レタスなんかに塩ふって放置したらあかんで。まずくなるからな。エグみがある青物野菜に限ること。余計な水分が出て、味もよくなる」

「毒抜き」が放射能除去にも有効なのは、放射線防護学が専門の安斎育郎・立命館大名誉教授も認める。

「ゆでると、組織内のセシウムが水分とともにゆで汁へ流出し、そこを冷水にさらすと取り去ることができます。ストロンチウムとセシウムを根から吸収させた小松菜を、ゆでてから水洗いしたところ、ストロンチウムは約50%、セシウムは80%以上除去できたという報告もあります」

 あらかじめ肉を冷凍しておき、解凍してから4~5時間、10%濃度の塩水に浸しておくと、90~95%のセシウムを除去することができたという報告もあるという。林先生は言う。

「放射能のことはようわからんけど、日本料理は昔から毒抜きをしてきた。同じことをすればいい。最近は手軽に作れる料理ばかりが取り上げられるけど、レンジでチンなんかあかん。あれは料理じゃなくてエサや。毒も何も抜けへん。放射能問題をきっかけに、日本料理をもっと知ってほしい」

 ところで、2005年にお笑い界のドンである西川きよし氏の長女、かの子さんと結婚したが、わずか3年半でピリオドを打った林先生。手料理をふるまう相手は誰なのだろうか。

「4歳になる娘は月に1回会ってるけど、外で会うだけで手料理は......。料理ふるまう身内いうたら、今は弟子やな(笑い)」

 林先生のプライベートはさておき、毒抜きは放射能除去のみならず、料理をおいしくする調理法としても実践する価値がありそうだ。

「新宿割烹 中嶋」2代目店主、中嶋貞治さん(55)は、店でもあえて被災地の食材を使って「放射能フリー食」に挑んでいる。

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