この年の演出はもともと浮かれ気味で、こんな趣向もとりいれられた。郷ひろみと松田聖子、近藤真彦中森明菜という、交際中の2大カップルを対決させ、手をとりあってのダンスまで踊らせたのだ。これが悪かったわけでもないだろうが、どちらも劇的な破局を迎えることになる。

 そして、フィナーレ。この日限りで引退する都はるみが大トリを務め「夫婦坂」を歌い終わると、アンコールが起きた。この展開を予測していた白組司会の鈴木健二アナは「私に1分間、時間をください」と切り出し、都は「好きになった人」を涙ながらに歌う。ところが、この前代未聞の興奮状態のなかで、総合司会の生方恵一アナがやらかすのである。

「もっともっとたくさんの拍手を美空……」

 このミスについて生方は、都の姿から同じく大歌手のひばりを思い出していたためだと振り返った。とはいえ、この盛り上がりは数字にもつながり、78.1%という視聴率を記録。この半世紀の「紅白」では史上2位タイの高数字だ。

 しかし、これは最後の70%超えでもある。翌年以降、視聴率は下降線をたどっていく。それでも伝説は生まれたが、失言や武勇伝的なものが多く、そのほとんどは広く知られているものだ。

 ここではそういうものより、節目の年に飛び出した知る人ぞ知るエピソードに触れておこう。99年の50回記念でのことだ。

 数字をとるための涙ぐましい努力はこの年も随所に見られ「伝説のスーパーヒーローショー」というコーナーにKinKi Kidsが登場して、大ヒットした「フラワー」のサビだけを歌ったりした。出場枠をめぐる、NHKジャニーズとのせめぎあいによるイレギュラーな演出だ。

 そんななか、10年ぶりに出場したのが三波春夫である。すでに76歳、ガンで体調もよくなかったが、浪曲歌謡の大作「元禄名槍譜 俵星玄蕃」を見事に歌いきった。しかも、その約1時間後、彼は遺言めいたスピーチをする。じつはこの年「蛍の光」でのフィナーレのあとに2000年へのカウントダウンが行われ、BSではこれも生中継されたのだ。

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長渕が中継先でスタッフを「タコ」呼ばわり