■初出場校からも逸材投手が続々
ところで、コロナ禍が続く中での開催とあって、選手たちは例年とは少し違う環境でプレーしている。観客の上限は1試合1万人。アルプススタンドでの応援はチアリーダーによるダンスや太鼓は可能だが、ブラスバンド演奏は禁止で、録音音源を使って応援曲を流している。通常の開催を思えば、球場での盛り上がりは少し寂しいが、良い面もあると安倍氏は話す。
「大声援やブラスバンドによる応援は、時に試合の流れを大きく変える。その意味で、静かな甲子園では純粋なチームの実力が出ます。球児のプレーや精神状態を左右するものがなく、静かでいいなあと思って見ています」
安倍氏は2016年の夏の甲子園2回戦、八戸学院光星(青森)対東邦(愛知)を例にあげる。4点を追う東邦が九回裏に5得点し、サヨナラ勝利した試合だ。観客が頭上でタオルを回し、球場全体が東邦を後押しした。
「全員が敵に見えたであろう光星の選手たちが気の毒でした。野球以外のものに心をかき乱されたんです。今大会の選手たちは春になってから数試合しかできておらず、不安も大きいなか大会に入った。純粋に甲子園でのプレーに集中できていることはいい面だと思っています」(安倍氏)
ちなみに、今大会は常連校だけでなく、初出場校にもきら星が目立った。安倍氏は「40年以上選抜を見てきたが、今年が一番全体の投手レベルが高い」と話す。21世紀枠で出場した八戸西(青森)の福島蓮は189センチ、72キロと細身だが、「全身の筋肉量が10キロ増せば、150キロを投げられる逸材」。聖カタリナ学園(愛媛)の櫻井頼之介は170センチと小柄だが、「マウンド上で大きく見えた。投げっぷりがよく、緩急のつけ方も巧みです」。いずれも甲子園初勝利はならなかったが、夏に期待が膨らむ存在だ。
「高校生は春から夏にかけて大きく成長する選手が多く、そうした選手がドラフトにかかる。今大会の好投手たちが夏にどれだけスケールアップして甲子園に戻ってくるか、楽しみです」(三井氏)
早くも夏の甲子園が楽しみだ。(本誌・秦正理)
※週刊朝日 2021年4月9日号