慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」。ベビーベッド奥の小さな扉が屋外につながっており、外から預け入れることができる (c)朝日新聞社
慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」。ベビーベッド奥の小さな扉が屋外につながっており、外から預け入れることができる (c)朝日新聞社
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 未成年が予期せぬ妊娠に直面したとき、親に打ち明けられないと孤立してしまう。自分を虐待した親から赤ちゃんを守るため一人で産んだ女性の運命は、本で動いた。AERA 2021年9月27日号から。

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 庭先で小さな男の子がホースの水をまき散らして笑っている。ホースの重みに小さな身体がひっくり返りそうになる。

「かわいいでしょう?」

 動画を映し出したスマホを見せるその人に笑顔が広がった。好きだという花にちなみゆりさんと呼ぶ。

 ゆりさんは大学3年生の20歳。2歳の息子を遠方の里親家庭に託し、経済学を学んでいる。

 2年前の秋、アパートで産んだ赤ちゃんを抱いたゆりさんは、新幹線で熊本市の「こうのとりのゆりかご」(以下、ゆりかご)に向かっていた。そのゆりさんが今も子どもと関係がつながっているのは奇跡に近い。

■男の子を自室で産んだ

 ゆりかごは慈恵病院が運営する、親が育てられない子どもを匿名で預かる仕組みだ。ゆりかごは建物の生け垣から小さな門を入った突き当たりにある。二重扉の二つめの扉を開けると温度調整がされたベッドがある。赤ちゃんを寝かせて扉を閉めるともう扉は開かない。

「一つめの扉を開けたあと、なぜか手が止まってしまって。どうしてだかわからないんです」

 赤ちゃんを抱いて立ち尽くすゆりさんを職員が保護した。

 妊娠がわかったとき、大学に入学したばかりだった。相手は高2からつきあっていた同級生。中絶を相談したが、彼は予約した手術日までに手術費用を用意しなかった。産みたいという気持ちが芽生え、葛藤している間に中絶可能な時期を過ぎた。

 予期せぬ妊娠をして中絶可能な時期を過ぎた女性を支える仕組みがないわけではない。特別養子縁組の斡旋団体につながれば、サポートを受けて病院で安全に出産することが可能だ。ただ、未成年の出産では病院から保護者の同意を求められる。出産後の特別養子縁組の手続きでは家庭裁判所の審判で保護者への聞き取りも行われる。

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