※写真はイメージです (c)朝日新聞社
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 記者にとっても不安の日々が続いた。母の電話の様子が普段と違うと、夜中にタクシーを飛ばして実家に向かった。午前2時、3時に家に入り、両親の寝息を確認してから明け方までソファで眠り、両親には「朝方に来た」とウソをつくことも。同居も考えたが、近すぎるとぶつかる気がしたので、頻繁に顔を出すことにした。だが疲れや不安もたまっていった。

 そうした状況が続いていたある日、当時のケアマネジャーが「在宅介護はそろそろ限界なのでは」とやんわりと施設への入所を促してきた。そこから、冒頭の特養の話になった。

 一日も早く施設に入れたい姉と、一日でも長く家にいさせたい記者。数カ月も話し合った末、最後は記者が折れた。「24時間だれかの目があるというのはやはり安心なのだろう」と言い聞かせた。施設にいたほうが安全だと考えたからだ。嫌がる両親を3カ月かけて説得した。父は前日まで「この家にずっといたい」と記者に泣きついた。

 特養のロビーで両親と別れた後、実家に戻った。リビングに入ると、脱ぎ捨てられた父のパジャマや、飲みかけの状態のコップが目に入った。2人はこの家に帰ってこられるのだろうか。とてつもない不安と罪悪感で胸が締め付けられた。本当にこれでよかったのだろうか。それ以来、実家に帰るたびに自問していた。

 しかし、両親は1年も経たずに退所することになる。期待した看護や介護を受けられなかったことが大きな原因だった。

 コロナ禍で面会もできず、通院で会うたびに衰えていく両親を見ていられなかった。姉と相談し急きょ、「看護小規模多機能型居宅介護(看護多機能)」の事業所へ移すことにした。これがどんな事業所かを説明する前に、「看護」がつかない「小規模多機能型居宅介護(小規模多機能)」について説明しておきたい。

 認知度はいま一つだが、「在宅」か「施設」かで頭を悩ませている人にとっては使い勝手が良く、試してみることをおすすめする。

 介護保険制度改正により2006年に創設された地域支援事業の一つだ。施設へ通う「通所介護」を中心に、利用者の希望などに応じ、居宅への「訪問介護(ホームヘルプ)」、短期間の「泊まり(ショートステイ)」を組み合わせて利用できる。

 特徴的なのは、これらがすべて一つの事業者で行われる点だ。利用できる人数は、一事業者29人以内と定められているので、家庭的な雰囲気が特徴でもある。厚生労働省によると、利用料は1カ月単位の定額制で、要介護1で約1万円、2で約1万5千円、3~5は約2万2千~約2万7千円となっている。そのほか、食費や宿泊費、おむつ代などの日常生活費は利用者負担となる。事業所によっては、「訪問体制強化」「看護職員配置」「認知症」といった各種加算がかかるので、詳細は各事業所に確認していただきたい。事業所数は全国に約5500カ所(20年時点)ある。

 実際、どのような生活パターンの人が利用しているのか。NPO法人「全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会」事務局長の山越孝浩さんが話す。

「たとえば夫婦共働きで、日中の介護が不安な方が、出勤前の午前8時に事業所にお母さまを預け、仕事帰りの午後8時にお迎えに来るという方もいらっしゃれば、通いは少なく、訪問が中心の方、週末だけお泊まりの方など、それぞれの生活によっていろいろです」

 逆に夜間が心配な人は、日中は家で家族が介護をし、夕方から「泊まり」を利用することも、週末だけ預けて、息抜きをすることもできる。事業所内にある泊まり用のベッドに「空き」があれば可能だ。

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