事業所のケアマネジャーが家族の要望を聞き、他の利用者の状況をみながら弾力的に組む。一度作ったケアプランどおりに動くのと違い、臨機応変に利用者や介護者の状態に合わせて事業所に通ったり、泊まったりできる。
東京都調布市の「小規模多機能ケアハウス絆」の管理者、安川誠二郎さんは、「在宅で暮らす認知症の人が、何かをできなくなってくると、たいていのケアマネジャーが施設入所を促してしまう」と指摘し、こう話す。
「認知症の人は場所に対する変化に弱いので、すごく混乱します。施設か在宅か、その中間に小規模多機能があると考えてほしい。薬の服用とか見守りとか、一日に数回の訪問介護や看護を入れることで在宅でも安心して暮らせるようになるはずです」
次に、記者の両親も利用している看護多機能だが、基礎疾患がある人や、体調の急変が心配な人が利用するのに向いている。
高齢者住宅・施設を全国展開する「学研ココファン」は今年4月、看護多機能を「ココファン南千束」(東京都大田区)内で始めた。エリア責任者の坂入郁子さんは、コロナ禍のようなときは特に、看護多機能の存在意義が大きいと話す。
「たとえば入院中に胃ろうを装着した患者さんの退院後のご自宅での対処の仕方については、コロナ禍では面会制限があるので病院で十分にできません。そんなとき、看護多機能ならば、看護師が訪問して指導ができるから役に立ちます。結果的にご家族の負担の軽減につながります」
利用者にとっては、訪問看護の予定日ではない日に転倒や体調不良などで不安になったとしても、その日に相談ができるため安心につながる。逆に訪問介護や看護の予定日でも「今日は体調が良いので通所に変更します」というのもできる。
在宅療養支援クリニック「かえでの風 たま・かわさき」(川崎市)院長の宮本謙一医師は、看護多機能についてこう話す。
「血糖測定やインスリン投与、持続点滴や胃ろう、たんの吸引、尿カテーテルや経鼻胃管、ドレナージチューブなどの医療処置があり、『最後まで在宅で』という方も『自宅でも施設でも良い』という方も柔軟に活用できます」
そもそも看護多機能が生まれたのは、「家で最期まで暮らしたいと願っているのに、医療の不安から在宅療養を中断してしまう」という視点からだという。