日本看護協会副会長の齋藤訓子さんは言う。
「小規模多機能だと、いわゆる医療依存度が高い人はなかなか受け入れられない。そこであの枠組みの中に看護を入れたら依存度の高い人でも受け入れることができるのではないか。それでできたのが看護多機能でした」
施設と在宅とのいいとこどりとも言える。家に帰りたいときは帰れて、泊まりたいときは泊まれる。介護者の事情や、本人の希望に沿って、柔軟に決められる。
小規模多機能と看護多機能の両方を運営する、つつじケ丘在宅総合センター社長で看護師の金沢二美枝さんは、「寝たきりの人であっても看護多機能の24時間365日提供可能な介護や看護サービスをうまく利用すれば、一人暮らしが可能です」と話す。
瀕死(ひんし)の状態で病院から運ばれてきた母は、寝たきりではあるが、周囲も驚く回復を見せている。病院から移ってきた当初は、言葉は発せられず、意識低下が見られ、酸素吸入していた。しかし、1カ月ほどで母の意識はしっかりしてきた。看護多機能に来てから約半年。今の母は施設入所前にあった幻視もなくなり、1年前よりさえているほどだ。笑う回数が増え、声も大きくなり、顔色も良くなった。
当時の薬剤師から、「産婦人科以外は全部かかっているのでは」と言われるほど大量にのんでいた薬も一切のまなくなった。
常に看護が必要な状態ではあるため、泊まり利用が多くなっているが、父も含め、2人の体調が安定したらもっと頻繁に家に帰る時間を増やしてあげたいと思う。本来、看護多機能は「在宅」がベースのサービス。泊まりを少なくして家にいる日数を増やすべきだからだ。
9月に父は米寿になった。昨年の誕生日は特養で、面会もできずケーキを届けただけだったが、今年は家で祝うことができた。父は言う。
「もう少し、頑張るよ」
特養にいたころ、通院に連れ出すと「生きてて、ごめんな」と言っていた。そんな父が「頑張る」と言うのだ。
今、父は母と同様に看護多機能の泊まりを多く利用しているが、時々実家に戻ると、時間の感覚を失うせいか、たった2泊でもずっと家にいる感覚になるようだ。
「やっぱり家はいいね。ありがとう、ありがとう」
そう言われると、1年前の罪悪感が薄れる。(本誌・大崎百紀)
※週刊朝日 2021年10月22日号