ところが、あるパーティーで出会ってしまったのです。近藤さんは深々と頭を下げて「お久しぶりでございます」と言うのです。声も表情もおだやかでやさしいのです。辛辣な文章からはとても想像できません。近藤さんは書く文章の過激さから、誤解された面がかなりあったかもしれません。
あらためて近藤さんのことを振り返ると、やはり西洋医学の人だったのだと思います。書かれた本を読んでも、あくまでエビデンスをもとに、がん医療のおかしさに切り込もうとしていることが、よくわかります。
しかし、私のように西洋医学の限界に気づいて、中国医学や代替療法に足を踏み入れた者から見ると、エビデンスにこだわることこそが、がん医療に限界を生んでいるのが、よくわかるのです。近藤さんにはもっと広い視野を持って欲しかった。そんなことをあの世でお会いしたら、話してみたいと思います。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年11月18日号