西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「医師・近藤誠さん」。
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【エビデンス】ポイント
(1)がん医療に一石を投じてきた近藤誠さんが亡くなった
(2)近藤さんは医学的なエビデンス(根拠)を重視する人だった
(3)近藤さんにはもっと広い視野を持って欲しかった
今年の8月に、『患者よ、がんと闘うな』(文春文庫)をはじめとする独自の主張でがん医療に一石を投じてきた医師、近藤誠さんが亡くなりました。
近藤さんとは古い付き合いになります。日本ホリスティック医学協会ができてからすぐの、1990年ごろに協会の企画でご一緒したり、座談会でお会いしたりしました。そのころから、がん医療の改革に熱意を持った人という印象で、好感を持っていました。
近藤さんの主張でまず同感できるのは、抗がん剤についてです。近藤さんは「抗がん剤治療で生存率が向上するのは、すべてのがんの1割でしかなく、残りの9割には、抗がん剤治療は無効なのです」(『患者よ、がんと闘うな』)と言い切っています。まあ、これは本が出た1996年時点の話かもしれないし、私はそこまで抗がん剤を否定するつもりはありません。抗がん剤が有効であるケースも確かにあるのです。しかし、抗がん剤が患者さんの人間としての尊厳を引き裂く治療法であることもまた、事実です。元気だった人が、副作用で別人のようになってしまうのを見ていると、今は必要なことがあるとしても、将来はなくしたい治療法だと思います。
このように近藤さんの考えに同感できることが多々あったのですが、ある日、患者さんが「先生、『文藝春秋』で近藤誠さんにこっぴどくやられていますよ」と言ってきました。読んでみると、確かに私が批判されているのです。日本中のがんの代替療法を集めようと私が編集に携わった『ガンを治す大事典』(二見書房)を取り上げて、根拠のないがん治療を推奨してけしからん、というのです。つまり医学的なエビデンス(根拠)がない治療法は許さないという姿勢です。これは私とはまるで考えが違うので、この人に近づくのはもうやめようと思いました。