本当にわが子の人生の選択肢を増やしてやりたいのなら、親のすべきことはシンプルだ。職業に貴賤などなく、ひとそれぞれに役割があり、世の中のすべての人生がかけがえのない愛おしいものであることを、実感とともに説くことだ。

■中学受験が「毒」になるか「良薬」になるかを分けるもの

「あなたのため」「いい教育を与えたい」「選択肢を増やしてやりたい」については、「あっ、自分も言ってしまったことがある!」と不安になったひとも多いだろうが、安心してほしい。中学受験生の親の多くは最初、この3つのセリフを口にする。つまり中学受験生の親になったばかりのころはみんな、「中学受験には向いていない親」なのだ。

 中学受験の日々を通して、中学受験生がだんだんと本当の中学受験生になっていくように、中学受験生の親もだんだんと「中学受験には向いていない親」から「中学受験に向いている親」になっていけばいいというのが近著『なぜ中学受験するのか?』の主旨でもある。

 中学受験生の親として成長できるかどうかは、中学受験の日々の中で感じる不安や恐怖を、自分自身の人間的未熟さの表出だととらえられるかどうかである。親が謙虚に自らの未熟さを認め、それを乗り越え、成長すれば、子どもも大きく成長できる。しかし、親が自分の感じる不安や恐怖をいつまでも子どもの成績の悪さややる気のなさのせいにしていると、子どもは簡単に壊れる。

 中学受験が子どもにとって「毒」になるか「良薬」になるかの違いはそこにある。

(教育ジャーナリスト・おおたとしまさ)

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