写真家・今道子(こんみちこ)さんの作品展「フィリア」が神奈川県立近代美術館 鎌倉別館で開かれている。今さんに聞いた。
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コハダのランジェリー、アジの帽子、ウルメイワシのエプロン、イカのスニーカー……。
「よく、こんな発想が思い浮かぶものですねえ」。作品を目にしながら筆者が言うと、「ふふっ。ふつう、こういうものを作ろうとは思わないですよね。そういう人なんでしょう」。今さんはまるで他人を評するように答える。
新鮮な魚の美しさがオブジェのグロテスクさを際立たせる。さらに作品からはユーモアさえも感じる。
「ただ、きれい、というだけじゃあ、つまらない。生物って、グロテスクさやなまめかしさもある。それに引かれますね」
ただ、ユーモアについては「別に意図していない」とキッパリ。けれど、「作品を見る人からすると、ちょっと笑えるようなところもあるみたいですけれど」と、付け加える。
「生の魚の感触を手に感じながらオブジェをつくるのが面白くって。例えば、サバを筆と絵の具で描くんじゃなくて、そのまま使いたい。それを写真に写して残してあげたいという気持ちが強くあります」
魚好きが高じてこのような作品をつくるようになった、というわけではない。むしろ逆だ。
「うちの母も父も、あまり魚が好きじゃなかったんですよ。生臭いと言って、魚をおろすのを忌み嫌っていた。だから私も、魚をつかんだこととか、なかった」
■キャベツが人間の脳に
1955年、鎌倉市生まれ。東京・国立の創形美術学校で版画を学んでいたとき、「写真製版」と呼ばれる技法を使ったことをきっかけに写真を意識するようになった。
「最初は絵を描きたかったんです。それが版画に変わり、写真になった。絵はシュールレアリスムみたいな、超現実的な作品が好きだった。それを描くんじゃなくて、自分の手でほんとうに作っちゃう。さらにそれを『真実を写す機械』みたいなカメラで、ストレートに撮ることで、超現実的なものがリアルになる。その面白さに気がついた」
78年、美術学校を卒業すると同時に東京写真専門学校に入学。カメラの使い方やプリントの方法を学んだ。
すると、もう翌年から現在につながる作品を発表し始めた。