最初のモチーフはキャベツだった。
「近所の直売所に行ったら、春キャベツがいっぱい積んであったんです。それを買って、皮を1枚1枚剥がしていったら、人間の脳のような物体がたくさんあるように見えた。それが面白くて。でも、野菜をテーマに写していたのは短かったですね」
今さんはすぐに魚の魅力に引かれていった。
「サバとか、模様がちょっとグロテスクで、それが枕から出てきたら面白いと思ったんです(笑)。でも、触るとヌルヌルしていて怖かった。最初は、キャーとか言いながらやっていました。いまでも、『怖いけれど、きれい』みたいなところがあります」
最初はシンプルな作品だったが、「見た人が喜んでくれると、今度はもっと手の込んだものをつくろうと思って」、モチーフは次第に複雑なオブジェになっていった。
■新鮮な魚を見るとつくりたくなる
今さんの作品づくりのモチベーションの源は、捕れたての魚だ。
「新鮮な魚を見ると、作品をつくりたくなる。イワシ、アジ、サバとか。あの、光っているのが好きなんです。ああ、きれいだな、と。金属質な輝きがモノクロ写真と合っているのも好き」
それにしても、いったい、どのような発想の流れでこんなオブジェがつくられるのだろうか?
「拾ってきた椅子、古道具屋で買ってきた昔の家電とか、そういう面白そうなものを集めながら、あれとこれをこうしたらいいかな、と。ノートなんかに書き留めて、それが頭の中でうまく出来上がったら撮影するんです。朝、魚を買ってきて、オブジェをつくり、夕方、日が落ちるまでに撮り終える」
オブジェの土台と組み合わせる魚は「夕食の材料を買ってくるような」地元の鮮魚店で手に入れる。
「できれば、鎌倉の『地魚』。鮮度のいい朝捕れのイワシやサバがいちばん。イカなんか、まだ生きていたりする。ただ、入荷するかは漁師さん次第なので、『入ったら、お願いします』とか、店に頼んでおくこともある。それがけっこうたいへんなんです」
花や果物などの素材は、ある程度、前もって用意しておく。
「でも魚は、朝、買いに行って、いいものが手に入らなかったら、その日は撮影を諦める。きれいと思えなかったら、やりたくない」