『ネガティブ・ケイパビリティ』という本が、著者も驚く広がりを見せています。著者は、精神科医で作家の帚木蓬生さん。「答えの出ない事態に耐える力」について書いた本で、刊行は2017年ですが、医療界のみならず、教育やビジネスの世界、子育て世代にも響いて、コロナ禍以降は、先の見えない時代を生きる知恵としても引き合いに出されています。
この力を知ると「生きやすさが天と地ほどにも違ってくる」と著者が言うネガティブ・ケイパビリティについて、詳しく聞きました。
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――ネガティブ・ケイパビリティという概念が、しみわたるように広がっています。ご著書の『ネガティブ・ケイパビリティ』は、2017年に出されて、すでに15刷だとか。
驚いていますよ。5万部に近づいているんでしょ。あんな地味な本が。びっくりしました。
――「ネガティブ・ケイパビリティって何?」と聞かれたら、どんなふうに説明なさいますか。「答えの出ない事態に耐える力」と本の副題にありましたけれど、もう少し教えてほしいのです。
そうですねえ。ネガティブ・ケイパビリティは、もともとはイギリスの詩人ジョン・キーツの言葉です。キーツ自身は「不確実さや不思議さ、疑いのなかに、居続けられる力」、あるいは「宙ぶらりんのなかに、居続けられる力」と言っています。それこそが詩人に必要な力なのだと。
そこにさらに、「性急な見解や解決を求めずに」と付け加えたら、わかりましょうかね。
――「性急な見解や解決を求めずに、宙ぶらりんのなかに、居続けられる力」ですね。それは、「我慢しなさい」「耐えなさい」というのとは違うのでしょうか。
ただ「耐えなさい」というのでは響きませんよ。それは性急な日本語です。
「ネガティブ・ケイパビリティという概念を知って、救われました」という手紙をいただいたことがあります。急いで結論を出さずに、浮遊して……、そこが大切なわけです。宙ぶらりんのなかに居続けるうちに、もっと深く理解するところに届きましょうから。行き着く先があるわけです。