帚木蓬生著『ネガティブ・ケイパビリティ』(朝日選書)※Amazonで本の詳細を見る
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 それから、私の担当編集者の一人が「これは編集者の心得ですよ」と言うので、へえ、そうですか、と。

 そんなことで、大変な広がりを見せているなあと思っていたら、今年の春、女性読者の多い、料理か何かの雑誌で紹介されて、びっくりしています。

――『レタスクラブ』(KADOKAWA)ですね。仕事と子育ての両立や夫婦の家事分担などの「難しい問題を抱えてモヤモヤしている女性」に読んでほしい一冊として、この本が紹介されていました。
 子育て中は、思うようにならないことばかりですし、やらなきゃいけないことがたくさんあり過ぎて、私は24時間ではまったくつじつまが合わなくて……。

 つじつまが合わないから、いいんですよ。つじつまが合ったらロクなことありません。もう発展がないですから。

 ビジネススクールからインタビュー依頼を受けて私が思ったのは、「到達目標」とか「成果主義」というものに世の中がんじがらめになっているのではないでしょうか。

 でも、構想を決めて、疑問があればパッパと答えを出して次へ進んでいく……というふうに人の生活はなってないですよ。それが、あたかもそうであるかのように洗脳というか、思わされて、教育や常識が出来上がってしまった。

 ネガティブ・ケイパビリティは、その反対ですから。

――モヤモヤしていて、いいんですね。早く正解に達することが良いことで、そうできない私はダメな私、というわけではなくて、疑問のうちに居続けることは力なんだ、と。割り切れないもののなかにいる自分と、私はもう少し付き合うことができる。そうすることで、むしろ、深みへ届くかもしれない、もっと深く味わうことができるかもしれない……。

 そう。悩む必要もありません。悩んでその辺の石が動くわけではありませんから。そこに居続けて、日々の生活をコツコツと、正しい生き方をしながらやっていけば、いい方向になんとか進んでいく、というのが本来の人生の流れのような気がします。

 私自身、ネガティブ・ケイパビリティの概念を知ってから、生きやすさが天と地ほどにも違ってきました。精神科医としても作家としても、ネガティブ・ケイパビリティに助けられてきました。

(取材・文/河原理子)

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